|
2009/03/27(金)
最終回
|
|
|
食堂の天井まで届いてしまいそうなコック帽に見とれた俺達は、香ばしいパンの香りとムスクの気怠い香りに包まれた。
健吾が叫ぶ。
『おかわり!』
まだ一杯目のご飯も食べていないのに…
しかもパンしかない…
着替えを持っていなかった勝はまだパーティードレス…
うつむき加減でフライパンを振るシェフの帽子は3メートル先の花瓶を倒した。
『おかわり!』
また健吾が叫ぶ。
健吾以外は昨夜のパーティーで出された甘海老の頭(残り物)でダシを取った味噌汁以外口にする事は無かった。
食事を終えた俺達は足早に外に駆け出す。
庭には三分咲きの桜が春の日差しにゆれていた。
健吾は勝に詰め寄る。
『春なのにお別れですか?』
『春なのに涙がまた一つ』
『春なのに、春なのに…』
勝が返す…
『行儀良く真面目なんて…』
『生きる為に計算高く…』
『盗んだバイクで…』
まったく意味がわからない…
ふと桜の木のうえを見ると、達也が学習発表会の練習をしていた。
無邪気に遊ぶ保育園の園児をトンビが連れ去るが先生は見て見ぬふり…
駅前でコンビニ弁当を二つ頬張る女性は新たな気持ちで次のボーイズを探しに出掛ける。
みんな見慣れた光景だ。
このまま時が止まれば良いのに…
みんな同じ気持ちでいたに違いない。
明日からまた同じ生活が始まる。
俺はさだまさしのベストアルバムを聴きながら腐りかけのチェリオを飲み干して、日差しを避ける様にベッドに潜り込んだ。
また金縛りにあうだろう…
おはり
|
|
|
|