夢想庵
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2007/02/27(火) 無題3
星を眺める事がとても好きな少年がいました

幾夜も幾夜も星を眺めていました

少年の体から心だけが抜け出し色々な星を駆け巡ることもありました

少年だけが知っている星座も沢山ありました

毎晩の家族との食卓で少年が話すことと言えば星の事ばかりでした

「昨日はね、ドラゴン座っていうのを発見したんだよ!」

ある日、少年のお父さんが彼のために天体望遠鏡を買ってきました

少年は大変喜び、また幾夜も幾夜も星を眺めました

いつしか少年は、星までの果てしない距離を知りました

自分がそこへは行けないのだということを知りました

そして夜空には昨日と同じように星が輝いています

ある夜、とても寒い冬の夜。

少年はお父さんに言いました

目を潤ませて言いました

「僕、星が遠いなんて知りたくなかったよ」

とても寒い夜でした。




老人は目を覚ましました。
「…夢」
ダンボールと板切れ、ビニールのシートで組み立てられた粗末な箱の暗闇の中で、
寒さに身震いをしながら、かすれた声でつぶやきました。
夜もふけて、他に誰も居ない静かな空間の中で、自分の鼓動だけがうるさく聞こえるようです。
「わしの使い古しの心臓もまだこんな激く打つことが出来るンだな」
僅かに涙の滲んだ目を手でこすりながら、そんなことをぼんやりと思いました。
老人は、まどろみの続くふわふわした感覚の中で大きな深呼吸を一つ、
ひんやりとした空気をその肺の中いっぱいに吸い込みました。
「今日は冷える。…雪が…降るかも知れンな」

老人の住む街の外れの公園は、夜が深まると人通りは殆ど無くなります。
街灯も少なく、老人の住処の辺りにはかたわらの一本しかないため、
その粗末な家は、より一層寂しげに夜の闇に浮かび上がります。
寝静まった繁華街の気配を遠くに感じながら、老人は息を殺すように毎晩をひっそりと過ごしているのです。
小さなよごれた住処の薄い壁を通して、時折バイクや車の走り去る音が遠くに聞こえます。
街の建物に行く手を遮られ行き場を失い乱れた風が公園になだれ込み老人の住処を撫でていきます。
大体は優しく、時々激しく。
強い風が吹く時、几帳面な性格のこの老人でも塞ぎきれなかった隙間から小さくヒューと音が鳴ります。
「忌ま忌ましい北風め。コイツがふく時が一番音が鳴りおるわい。北面の壁をまた調べンとなぁ」

「北は陽が回らンで光透かして隙間見つけるのが出来ンから厄介なンだがなぁ」

「そういえばこの季節になると寝床に潜り込みに来るあの猫…」

「最近見かけ無いがそろそろ来る時期かなぁ…」

「…もう一枚毛布か何か欲しいなぁ…」

「…明日辺り何処かで…」

「…明日は…」

「……」

「…」


老人が地面からの冷え込みを背中に感じながら、またうつらうつらとし始めた頃。
かさり。
何か小さなものががぼろ小屋の壁に触れる微かな音がしました。
風に飛ばされた枯れ葉が壁の板切れをかすめていったのかな。
かさり。
すぐそばの芝生に軽い何かが落ちる音。
こんな遅い時間に誰かが歩いているのかな。
かさり。
小さな生き物の足音にも聞こえます。
もしかしたらあの猫かな。
かさり。
小屋の屋根に小さな音。
かさり、かさり。
今にもまどろみの中へ落ちようとする老人は、これらの音を聞くとも無しに聞きました。
かさり、かさり、ひそ、ひそ。

かさり。
・・・ああ、北風のやつったらもう雪を連れてきたよ
 (・・・少年の声・・・?
かさり。
ほんとだねえ。また春までは風乗りは出来ないねえ
 (さっきとは違う響きの少年の声だ
かさり、かさり。
冬の風ってば、なんでこうつんけんしてるのかしら
 (女の子の声・・・
かさ、かさり。
この間乗った秋の終り風も難しい性格の風だったよな
 (また・・・少年の声
かさり、かささ、さらさら。
そうねだえ。秋風が悲しがり屋なのは仕方ないんだけど
 (まただ・・・
ちょっと、お話が長かったよね
さらさら、さら。
くすくす
 (小さな子供のくすぐるような笑い・・・?
さら、さらら・・・
ああ、こうやって雪の降ってくるのを見上げているとぐんぐん空に昇ってる様な気がしてくるね
 (・・・?
うん。ずっと高くまで昇っていけそうだね
かさり・・・
ずっと高くのあのドラゴン座まで・・・
 (・・・


冷え切った地面に徐々に雪が積もり始め、静寂が折り重なるように辺りを包んでいきました。
いつしか老人は底冷えも感じず、ただ深い眠りの海の中へ沈んでいきました。
街灯に照らされた空間にだけ雪が見えます。
それはまるでスノードームのようでした。

老人が目を覚ました時には、もうすっかり陽は昇っていました。
「夜更けに子供の話す声を聞いた気がするが・・・。夢でも見たかな・・・?懐かしい言葉を聴いたような・・・」
冷えて軋む体をゆっくりと温め、やがてもぞもぞと起き上がりました。
「・・・おや」
寝ぼけた目が次第にはっきりしてくると、北側の壁から数箇所、僅かに光が漏れているのが見えました。
「ここだったか・・・。後で直す時に解るように目印をつけておこう。しかし、なぜ北側から光が・・・?」
そうして外に出ようとした老人は一瞬眩しさに目がくらみました。
あたりは真っ白の雪に覆われ、まるで穢れを知らないかのようにきらきらと輝いていたのです。
光に溢れた世界に徐々に目が慣れ、ふとそこらじゅうに日常の街の喧騒があることに気づいた老人は
もはや夢うつつに聞いた子供の声を思い出すことも無く、早速小屋の修繕を始めるために材料の調達に
なぜか少し明るい気分で、散歩に出るような軽い足取りで出掛けました。


雪に残った四人の子供の足跡は誰に知られることもなく
夜の間に新しい雪に埋もれ、いつしかその雪も溶けてゆき

そして春がきました。


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