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2007/05/11(金)
ブレイク
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「プラチナ様、急ぎこちらの書類をお願いします」 「ああ、分かった」 プラチナの王としての執務はまだまだやることが山積みだ。それもこれも、天使の襲来やら旱魃やらの天災(というにふさわしかろう)という、ある意味日常茶飯事の問題もままならないというのに、産業の安定や復興、堕天使との共存などという大革命の理念をぶっ立てた、プラチナの「自分で自分の首を絞める」政策がある。 そして、それ以上に、先王が残していった大問題な置き土産も、未だ収拾がつかない状態なのだ。 「ふう」 思わず深く息をつくプラチナに、しかしジェイドは容赦しない。 「まだ休憩されるには間がありますよ」 モノクルの奥の目を細めて薄く笑うその顔は、王位継承戦争のそれと変わらず酷薄だ。 「――分かってる」 自然とプラチナも、人形のようなおもてを更に硬くする。 「そちらが終わったら、こちらに目を通してください。週明けの議会で協議される件の資料です」 「ああ。分かった」 問答無用に休む間も無く突き出される書類や検案書の山。これが午後のお茶の時間まで続く。 「それからプラチナ様」 「なんだ」 だから、そのときも次の書類が突き出されると思ったのだが。 「――っ」 機械的にジェイドに向かって伸ばした手は、そのまま彼に引かれ、バランスを崩し、あ、と声を上げる間も無くするりと首の辺りをもう片方の手に掬い上げられ――。 気がつけば、唇に柔らかく押し当てられた、何か柔らかな感触と、ほろ苦く甘い、とろりとしたもの。 半ば茫然と、されるがままに、口移しで何か甘いものを口に含まされ、それを嚥下してようやくやわらかくプラチナの唇を塞いでいたものが離れた。そこでようやく、それがジェイドの唇だと気づく。 「な……っ!」 あまりにも吃驚して、わなわなと声なく訴えるプラチナに、しかしジェイドは悪びれもせず、にっこりと笑う。 「お疲れのご様子でしたので。これで少しは体力も回復するでしょう?」 それから「俺はこちらの書類をアレク様に届けてきますから」などとしれっと言い置いて、ジェイドはその場を辞した。 パタンと黒檀のドアが閉まった後、取り残されたのはプラチナだけ。 「――あの馬鹿」 まだ甘い味と、やわらかな感触が残る自分の唇を、わざとグイっと手の甲で拭う。 「――俺は甘いものは苦手なんだ」 そう呟くプラチナの顔は、甘く熟れた桃よりもとろりと甘く色づいていた。 -------------------------------------- 久々のJP ファンタジーだから、久々の語彙を使えるので楽しいけれど、忘れている語彙もいっぱいあって切ない。
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