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2007/05/18(金)
膝枕選手権
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「一ノ瀬って、膝枕するのもされるのも、似合いそうだよね」 朝の準備の時間、僕はポツリとそんなことを言った。 いつもの朝の出勤は、三原さんが一番、一ノ瀬が二番目、僕と高見沢さんが同じくらいで、桐野さんは用事があれば本社に行くから、そのときによって早かったり遅かったりする。でも、僕が三原さんちに泊まったときは、たいていは三原さんと一緒に店に来るから、朝、三原さんと一ノ瀬と僕の時間が長いことがある。 今の時期はちょうどGW明けで、お客さんも落ち着いているから、この人数だとわりとのんびり朝の準備が出来るのだ。 そこで、思考に余裕が出来ていた僕は、そんなことを考えたのだった。 ぶふ、と噴出したのは三原さんで、一ノ瀬はどんな顔をしていいのか分からない様子で固まっている。 「なんだそりゃ?」 「……え。………と?」 「うん。だからね。イメージの問題なんだけどさ。なんだか、似合ってない?」 「膝枕、ねえ?」 にっこり笑うと、三原さんは苦笑したまま、固まっている一ノ瀬に視線を移す。 「急に眠たくなったりしたときに、無意識に隣の人の膝を枕に寝ちゃいそうだし、逆のときでもなんか、一ノ瀬の膝枕は気持ちよさそうじゃない?」 「……そう、か?」 甚だ疑問に眉をひそめて、一ノ瀬が困惑気味に聞いてくるから、僕は思い切り「うん!」と返事をしておいた。 「ビジュアル的にもね。ころんと横になって膝枕されてる一ノ瀬も、いきなり膝枕されて、動くに動けなくなって、真っ赤になって固まってる一ノ瀬も、かわいいかなって」 「そ……」 「ただそれだけなんだけどね」 固まった上に真っ赤になった一ノ瀬に、「それだけだよ」と声をかけて、僕は無駄話を終えることにした。 (でも本当に、似合うと思うな、膝枕) 想像するだけでも可愛らしい。 自分の(ほとんど意味のない)思いつきに満足して、ナプキン類のチェックをしようと、カウンター席に近づくと、不意に耳元にぼそり。 「オレはお前の膝枕がいいけどな」 僕にだけ、聞こえる低い声。 僕が真っ赤になったのは、言うまでもない。
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