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2005/08/29(月)
Summer Season乙女智裕後
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カタタン、カタタン……遠くで電車の音が軽くリズムをとっている。夕方間際の黄色い日差しが、蝉の鳴き声と一緒に夏の彩を引き立てている。うだるくらい蒸し暑くて、いつも人通りが少ない裏露地の道は、更に人の気配がしない。 駅までの道。隣には三原さん。さっき、泣いてしまったから、少し照れくさい。だから、僕は黙ってしまっている。 三原さんも特に何も喋らない。でも、嫌な沈黙じゃない。 嬉しい。 昨日までの、違うな、ほんの少し前の僕からは、想像できないほど、今の僕は幸せでいっぱいだ。 隣の三原さんの気配に、ドキドキする。 「今日はもう、帰るな」って言う三原さんを送る道は、ちょっとだけ遠回りする方を選んだ。出来るだけ長く一緒にいたいから、ゆっくりとした足どりになる。三原さんも僕に合わせてゆっくり歩いてくれる。 (三原さんも、そうだったらいいな) 帰るって言ったけど、でも、ちょっとでも長く、一緒にいたいって、思ってくれていればいいのに……。 そんなふうに少し思って、ちらと三原さんの方を見ると、 (うわっ) 三原さんと目があっちゃった。 ちょっと、いやかなり、照れる。 急いで視線を逸らすと、 「どした?」 なんて聞いてくる。 (聞かないでよ、もう) 内心、心臓バクバクなのに、 「別に」 って、空っとぼけてみる。……声、上ずってるよ僕。格好悪いなあ、もう。 「そっか」 三原さんは、気づいてない、のかな? (なんで目、合ったのかな……) ひょっとして、って、期待しちゃうよ。 ドキドキする心臓を沈めようと、景色を眺める。 不意に、左手に触れる感触。 「えっ?」 「あ……」 驚いて手を引っ込めると、三原さんも驚いて。僕たちは目と目を合わせた。 「え……えっと」 ドキドキしすぎて、僕過剰反応しちゃったんだ。……偶然、手が触れただけなのに。 いつもなら、さらりと出てくる都合のいい言葉は、心臓に詰まって出てこない。ああ、三原さんも困っちゃってる。 「その……わりい」 三原さんが謝るところじゃないのに。ああ僕の馬鹿。 どうしていいのかわからず、らしくもなく口ごもる僕の前で、三原さんもばつ悪そうに、がしがしと頭をかいた。 「……ここ、あんま人いねえのな」 えーとえーと。 「うん。特に、今日暑いし。――夏休みだし」 「そっか」 「うん」 ミンミンミン……蝉が鳴いてる。 「……だから、いっかなって」 「何が?」 思わず聞き返して、しまった、と思う。ここ違うよ、そういう対応じゃなくて、えーと。ほら三原さん、押し黙っちゃったじゃないか。 柄にもなくうろたえている僕。三原さんは更に身の置き所がないらしく、手を結んだり開いたりしている。 「……だからな」 「うん」 「…………いや、いい」 あ……そう。 三原さんはちょっとだけ怒ったみたいに眉をしかめて、それからまた歩き出してしまった。 怒った――わけじゃないよね? 「智裕?」 すぐに振り返って、僕を呼んでくれた顔は、穏やかで、怒ったわけじゃないと分かる。 僕はほっとして、すぐに三原さんの隣に歩いていった。 ゆっくり、ゆっくり歩く。駅につかなきゃいいのに、なんて思う。 途中何本か電車が走りぬけ、自転車も脇を通り抜けたりした。でも殆ど人通りはない。 「今度はさ」 ぽつりと、三原さんが言った。 「もっと一緒にいような」 嬉しい。 でも、変なの。 「今日だって、もっと一緒にいてくれてもいいのに」 僕が言うと、 「今日はだめ」 なんてつれないことを言う。 「……用事あるの?」 「いや、別にねえけど」 「じゃあいいじゃない?」 「だめだ」 「ふうん」 ヘンなの。よく分からないや。 それから、また僕らは押し黙って、気恥ずかしい沈黙を味わいながら歩いた。 向こうの方に駅のホームが見える。 「智裕」 不意に呼ばれて、「なに?」って返事をするまもなく、唇にちょっと柔らかいものが触れる。 「え……え?」 それは一瞬のことで、気づいたときには真っ赤になった三原さんの、ちょっと怒ったみたいな顔しかなかった。 「えと、見送りはここでいいや」 「あ、そう」 「んじゃ、また明日な」 「うん。気をつけて」 やり取りだけ聞いていれば、すごく淡白。でも、お互いどんな顔してやってるんだろう。そんなこと考えると、ちょっと恥ずかしい。とりあえず、三原さんはもう真っ赤で、そのまま走っていってしまった。きっと僕も負けないくらい真っ赤だよ。今。 (……まったくなあ、もう) いい加減イイトシして、なに照れてるんだろう僕。 やってることが高校生並だよ、なんて文句を言いながら、僕は口元を押さえて棒立ち状態だ。 嬉しくて嬉しくて、僕はすっかり骨抜きの格好悪いカンジになってしまっていた。
---------------------------- 終わり。 Summer Season そういやあ書いてないな〜と思って。 カワイイ智裕も好きですよ。 アポも書きたいな〜と思うんですが、こないだ本作るのにプレイしなおしたらカフェリン熱が上がってしまいました。ひゃっほう。 あ、声はマイケルさんでヨロシク(毒)
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