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2006/04/25(火)
すれちがい
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同じ職場にいても、すれ違うことってあるんだな。 今日は一日忙しくて、顔を合わせてはいるけど、三原さんと話すことが殆どなかった。 いつもだって、しょっちゅう話してるわけじゃないけどね。やっぱり仕事だし。 でも、オーダーのやり取りや補充なんていう、業務関係のやりとりしか言葉を交わしてないっていうのは、すっごく珍しい。帰りは帰りで、僕のほうに予定があったから、店がクローズしてすぐにあがらせてもらったから、挨拶もそこそこだったし。
結局、僕の用事もだらだらと長引いてしまったから、終わったのはかなり遅い時間で。これじゃ三原さんちに行くより、さっさと帰ったほうがよさそうだ。 携帯電話の時計を眺めて、僕はちょっと逡巡してから、やっぱりそれをポケットに突っ込んだ。 メールじゃ寂しいし、声を聞いたら会いたくなる。 だったらこのまま、明日まで我慢したほうがよさそうだ。
帰ると決まれば、さっさとタクシーを拾おう。そう思って大きな通りに足を向けると、さっきパンツのポケットに入れた携帯電話が振動した。 (あれ?) ひょいと取り出して画面を見ると、三原さんからの、電話? 『おつかれ』 慌てて出ると、今、すっごく聞きたくて、だけど我慢した人の声がする。 「何電話してくるんだよ、もう」 すごいタイミングにドキドキして、その反面、せっかくの我慢を台無しにされてちょっとばかり恨みがましい気持ちになる。声に表れたのか、 『あ、ひょっとして、まだ打ち合わせだったか?』 三原さんの声が少し神妙になる。 「打ち合わせの最中なら電話になんか出ないよ」 僕が仕方ないなあ、という声で答えると、 『それもそうか』 とほっとした声が返ってくる。 「今終わったところ。すごいタイミングで、びっくりした」 『はは。そりゃよかった』 「愛の力かな?」 『なんだそりゃ?』 「だって、今三原さんの声聞きたいなって思ってたところなんだもん」 素直に言うと、電話の向こうで三原さんは黙ってしまった。きっと照れているに違いない。こういうところが可愛いよね。 でも、照れてるだけで終わらないのも三原さんで。 『…………だったら、かけてくりゃいいだろ』 ほら。こういうことを素で言うんだから。困るよね。 「声聞いたら、会いたくなっちゃうじゃない。だから我慢してたのに」 つい恨みがましいことを言ってしまうじゃない。言いたくなかったのになあ、もう。 いつものことながら、負け負けな自分を薄情すると、電話の向こう側の意外とタラシな三原さんは、更に僕をダメダメにするようなことを言った。 『なら、会いにくればいいだろ』 「――っ」 もう。 なんなんだよ、この人。 恋愛経験値は絶対僕のほうが上だと思っていたのに、全く全然歯が立たない。 「もう、あなたなんか知らないよ!」 僕は悔し紛れにそう言って、電話を一方的に切ってしまった。 (三原さんなんか、三原さんなんかっ) またしても、いつの間にかアドバンテージをとられてしまった感じがして悔しいのに、すごくドキドキしている自分が自分じゃないみたいで、それがまた嬉しい気がして、だけど全然僕らしくなくて。しかもそんな自分が結構好きだったりするから始末に終えない。 結局のところ僕は三原さんにメロメロなんだってことなんだけど。 (もう仕方ないか) 悔しいけれど、こればかりは仕様がない。 僕はタクシーをさっさと拾うために早足で大通りへ向かった。 行き先は、予定変更。きっと三原さんは、驚きながらも僕を迎え入れてくれるはずだから。
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このシチュエーションで智裕サイドって書いたことないなーと思って。 仕事忙しい上に原稿締め切りがああああ! てんでテンパリ状態っす。
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