|
2006/09/25(月)
歳若い恋人
|
|
|
丁度手が開いたから、溜まっていたゴミを店の外に出しに出た。 (うわ。まんまるだ) ついでに少し休憩しようという目論見だったけど、これは正解かなと思うほど、夜の空は澄んでいて、月がぽっかりと、綺麗に浮かんでいた。 多分満月は過ぎているから、立待月ってところかな。 今日は晴れて、寒くもなく、暑くもないから過ごしやすい。夜の風は少し肌寒いけれど、気になるほどじゃない。 こういうのはいい。 知らず顔がゆるんで、それにしても絵になる月だなと構図を考えていると、一台の車が店の前に止まった。 (あれ? 確か――) 見知った車に目を移すと、案の定見知った顔が車から降りて来た。桐野さんの友人とかいう、的場と言う人だ。 的場さんは、僕を見止めると、「やあ」と微笑んでくれた。 「いらっしゃい」 僕も軽く会釈をする。最初の印象はずいぶん硬い人だな、と思ったけど、最近は柔らかくなった印象がある。 ふふ、と笑みをこぼしてしまった僕に、彼は怪訝そうな顔をした。 「? 何か」 「ん? 別に、大したことじゃないですよ。ただ、最初の頃とずいぶん印象が変わったな、と思って」 取り繕っても仕方がないから、正直に言うと、彼はまたも不可解な顔をした。 「歳の離れた恋人を持つと、気持ちが華やぐのかな」 くすくすと笑いながらからかってみると、最初ぽかんとしていた的場さんの顔が、急に難しい顔になる。 「……大人をからかうもんじゃないな」 「からかってなんて。ただね、うちのオーナーも、ここ最近元気だから」 それでなくてもバイタリティある人だったんだけど、更に輪をかけて、と大仰に言うと、的場さんは相好を崩した。 「そうなんですか」 「そうなんですよ」 どういういきさつなのか、三原さんがオーナーと付き合うようになってから、やたらと元気がいいらしい。うちの店にも足しげく通ってくる。「放任主義も困りますが、いささかうるさいですね」と桐野さんがぼやくという、珍しい現象まであるほどだ。 的場さんといえば、アイドルグループbirdieのリーダー、中条和也とさいきんそういう関係になった。和也本人が嬉しそうに教えてくれた。 「……」 会話が途切れた僕らの空気が、的場さんは落ち着かないらしく、目を泳がせている。 (そろそろ解放してあげようかな?) 僕もいい加減、仕事に戻らなくちゃ。 「……確かに」 そう思ったとき、ぽつりと的場さんが口を開いた。 「大切な相手がいるというのは、それだけで気持ちが変わると思うよ。若いからとか、そういうのは分からんが」 実直な、彼らしい意見に、僕は好感を持った。 「そうですね。確かに、そうかも」 「おや、分かるかい」 にっこりと温かい笑顔で尋ねてくるから、僕も真っ直ぐに彼の目を見た。 「恋人はいないけれど、大切だなと想う気持ちは分かります」 正直に答えたら、「そうか」と的場さんは頷いた。 「じゃあ、僕はそろそろ仕事に戻らなくちゃ」 失礼しますと会釈すると、彼も「ああ」と挨拶を返す。 「引き止めてすまなかった」 「いえ。ではあとで。お店にきたんでしょ?」 「ああ。ブレンドをもらおうと思ってね」 「かしこまりました」 そう言って、恭しく頭を下げると、彼は店の入り口へ、僕は裏口へとそれぞれ向かった。
----------------------------------- 智裕で〜す。 智裕の大切な人は誰なんでしょうねー。 流れ的に自然なのは桐野さんですが、コクってないっぽいあたりがち進かなと思ったり。 私としては、拓実兄さんだと思って書いたんですが、読んでくださった方のお好みでドウゾ。
|
|
|