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2019/04/11(木) デニーズ・募集
            孤独 2

「でも、十年二十年もの間には同じ人に逢っているかも知れないんじゃないですか?」
 「あるいはそうかも知れません、しかしあの人はこの前何処何処で見た人だ、と思い出す事が出来ますか、けれどこれが田舎など、人の少ない所では一週間も滞在すれば顔見知りの人が幾らでも出来る事を考えると、これは都会と言うものの持つ恐怖だという事が出来ますね。」 
「では、私があなたと(あなたも毎日の様にここに来られる様ですが)繁々と店に通い、会うというのは、何か特別な理由があるんですかねえ。」 
「ええ、そうです。私はあなたに感謝しているのです。街や道に満ち溢れた見知らぬ顔の中に、期せずして毎日あなたと逢うと言う事は、非常に心強く思えるのです。」 
原田は、そう言ってタバコを出すと無理に洋一郎に薦めるのだった。
そして続けて
「あなたは友人を訪れた時、若しその友人が残念ながら不在であった、としたら、非常にガッカリした、空虚な気持になるだろうと思います。心弱い私には、この見知らぬ顔に取巻かれた気持ちが堪えられないのです。」
 洋一郎はマッチを取ってパッと擦って火をつけた。原田はそれを見ながら、突然、 
「ところが、僕はその気持が大好きなんで」 
「?」
洋一郎は原田が急にぞんざいな言葉で、変な事を言うので吸いかけたタバコを、思わず口から離した。 原田はビクッとする様に狼狽して、 
「いやいや、騒然たる中の空虚、頗る多数いる人ごみの中にこそ本当の孤独があるのです。ちょうど紺碧の空の下にのみ漆黒な影があるように……。」 
だが、洋一郎は、もう答える事が出来なかった。あの貰ったタバコを一口吸った時から、心臓が咽喉につかえ、体は押し潰される様にテーブルの上に前のめって、あたりは薄く霞み、例え様もない苦痛が、全身に激しいカッタルさを撒き散らしながら駈け廻った。
 そうして薄れ行く意識の中に、原田の毒々しい言葉を聞いた。 
「さようなら。私は孤独を愛するのです。それを愛するばかりに、乱されたくないばかりに、あなたに消えて貰うのです。孤独は全てに忘れられ、全てに歪められた私に、たった一つ残された慰めです。それを荒らされたくはないのです。」
 さようなら。               
                   (了)


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