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2018/12/12(水) 海辺の小さな町で
     海辺の小さな町で

 その日、雄二は少しうらやましくもあった。10〜12才程度の子供たち4〜5人が海の中へ素もぐりでトコブシや海草を取っていて、取れるたび楽しそうに騒いでいる。
雄二は泳げないのだった。小さな漁港である。もう今日の水揚げは終わったのか閑散としている。港内の海は子供たちの格好の遊び場と化していた。貴重な海産物を取っても咎める者はひとりもいないのだ。その漁港の対面にある小さな商店街、おそらくこの町で唯一の繁華街であろう。一本の細い路地、それが商店街であるが、シャッター街となっている。鯵や小魚を干物にするために店先に干してある魚屋、古い物ばかり置いてありそうな雑貨屋、そして漁師たちの社交場なっている床屋、そんな店が点在している。
ドブ板のその先は、歓楽街がありそうだ。と言っても、スナックやバーが3・4軒ほどだが。
 漁港前の、県道をはさんでその一帯はある。赤く色塗られた小橋を渡る手前から狭い道へと入り込み、ゆるい勾配の坂を登ると、大きなコンクリートの煙突が何本も立っている。おそらく魚の加工場であろう。その煙突の群れが終わったあたりから丘のように盛り上がった土地になり、中腹に白いペンキ塗りのみすぼらしい建物が見えて来た。
 ぐるりと漁港のほうを見下ろすと、どんよりした灰色の砂浜と防波堤が見えた。ここまで登ってきたくらいで疲れてしまったか、膝のバネが緩んでしまったかのような足取りでここまでたどり着き、海へ注いでいる小川の川尻を見ながら、雄二は思う。小さなトタン屋根の家がゴミゴミと建て込んでいる町唯一の住宅街、ここにも人間たちの日々の屈託があるのだろう。歓楽街にでも行ってみようか、何かが起きるかも知れない。
 今度は今登って来た道を下り始めた。建て込む通りを下りて、間もなく県道を目の前の川沿いを曲がり、ドブ板に沿って少し歩き、タバコ屋の角から狭苦しい路地へ入った。子供相手であろう駄菓子屋の軒先すれすれにその駄菓子屋の店先も過ぎ、小さなコンクリートの塀で仕切られた2軒ほどの飲食店。ここも未だ街の一角である。まだ時間が早いので、もちろん店は一軒も開いてない。
 そのうちの一軒、「スナック・月子」と書いた看板の下で、いかにも自堕落そうな40年配の女が、まだ起きてから間もないような雰囲気を漂わせながら、長い髪を梳かしていた。
雄二は声をかけてみた。
「この辺の店は、だいたい何時頃開くの?」
「6時半ぐらいからだねえ」
女は答えた。意味もなく笑顔を見せながら。
まだ5時間もある。
「じゃあ、出直そうかな。」呟くように言って、そこを立ち去った。
 それで終わりである。
 夜になって出直したとして何になる。話題は魚の獲れ高か、大都市の景気の話、それ以外にない。あとは、テレビの話が少しと、先行きの話(これにはちょっと興味がある)
第一豊丸が今季豊漁で、いよいよ第二豊丸を購入するとか。となると船長から、機関長・船員数人が必要になると常連客同士が景気のいい話をしている。
 ここらで俺もいっちょやったるか、、雄二はふとそんな事を思って想像してみた。
                           (了)


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