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2019/01/14(月)
フェリース
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リズム 1
深夜ワインの瓶を眺めながら、アート・ペッパーの女々しいアルト・サックスの響きと、バックで弾いているピアノがとてもいいクッションとなって、僕はそのサウンドの上に長々と横になり、次はコール・ポーターの名曲「恋とは何でしょう」を聴く準備を始めていた。 何でしょう、何でしょう。 空っぽの頭の中を言葉が駆け巡り、意識と無意識の間から直感でもつかめたら最高なのになーと、胸元でニャーニャー言っている飼い猫に尋ねてみたら、大きなあくびをひとつして、玄関の方に消えてしまった。 本当の事を言うと、僕だって真剣に「恋とは何でしょう」などと考えていうわけではなくて、ボンヤリと遊んでいるみたいなもんで、ただ口ずさんでみただけです。それだけです。 明日は、彼女とドライブする約束があるのです。広い草原まで行って、雲が流れて行 くのを眺めながら、食事をして、素足になって風に、吹くままに当てる。 そんな風な明日の事を考えていたら腹が減って来たので、寝る前に目玉焼きを1コこしらえて食べた。 片目のジャック 翌朝、僕は竹が二つに裂けるようなよじれるような、きつい大きな音で飛び起きた。 彼女が勝手に僕の部屋に侵入していて、僕が粗大ゴミの中から拾ってきた、つぶれたアルト。サックスを思いっきり吹いたからだ。 僕が彼女を少し目を細めながら睨むフリをしたら、彼女はジャムでも舐めるように舌を出し、反省の態度を見せた。 僕は彼女とのはっきりとしていない境界線を保ちながら着替えて、それから歯を磨いた。そして足元に猫がニイハオと鳴いて餌をねだって来たので猫缶を開けてやり、夕べの残りのゆで卵も添えてやりました。そして留守をお願いして、彼女が用意して来た真っ赤なパブリカに乗り込み、一路目指すは海だ。 GO! 町にはスモッグと排気ガスが覆い、アスファルトにはヒビが入って大きな車と小さな車であふれいてる。おまけに信号が多くて何回も引っかかる。その度に点滅する歩行者用信号と、横断歩道を早足で歩く人々のリズムと、隣車線で、青信号に変わったらすぐ発進するぞと意気込む運転手、そして僕たちの心臓の鼓動のリズムとが幾重にも交錯して、頭が少しクラクラしてしまった。車は、思い切り空き缶を蹴り飛ばしたのに、思ったほどは遠くへ飛んでくれない様に、なかなか進んでくれません。 都会は嫌だ。たまに遊びにくればそれでいい。住む所ではない、住むなら田舎だ、と改めて思った次第だ。 彼女は、タバコに火を点けたり、あくびをしたりと、神経や身体をほぐしながら運転している。しばらく進むと、急に風が優しくなって来て、窓から僕達の髪を揺らしながら小石だらけの道に入って行き、車は小刻みに振動して体の芯に入って来た。僕はその振動が気持ち良く、目をつぶっておとなしくしていると、隣で彼女はハンドルを握りながら、小さい声でSOS・SOS、と呟いていた。 (続)
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