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2018/11/19(月)
湘南藤沢徳州会・送迎
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ジャズ喫茶でありがちな夢想・1
俺は若かりし頃横浜のあるアパートに住みついていた。 ひっそりと小銭を大事にし、卵ひとつつぶす勇気もなく暮らしていた。 その小銭をジャラつかせ小一時間も歩いて桜木町のジャズ喫茶まで通った。歩きながら血液がフツフツと沸きあがってくるのを感じた。テナーの音にしびれる生ぬるいこの世の中(というより生活?) やがてジャズ喫茶につくと尿意を感じ、いつも必ずトイレに直行する。そしてトイレの鏡に映った自分の顔をぼーと眺め一人、百面相をしてみる。 俺の前に座っているオヤジは、どう見ても工員という感じだ。頭がコッペパンそっくり。その男はアート・ブレイキーのドンドコドンドコいうドラムにあわせようとしている若いキース・ジャレットの上下するピアノ音を聴きながら歯茎の赤をそり返しくちびるを水枕のようにしてフレディ・ハバードに成りきっていた。 タバコにひとりが火をつけると2〜3人は必ず同じようにタバコに火をつける。俺は一服吸ってからなぜかしらん安心してタバコをもみ消し、天井を見上げたりして心地良くなっていった。まるで遊園地の観覧車をコロコロ回しながら放り投げるように演奏は急ピッチで進む。フレディ・ハバードのトランペットから同じメロディーが繰り返しコピーされた。俺の頭の中で増殖して行くコピーされた音はお袋をも巻き込み大パレードの予行練習といった感じだ。 古びたビルの屋上に上りトランペットを吹いているのがお袋だなんて信じられない。 店のウェイトレスがチョロチョロとコップに水をさしに回っているので俺は喉のボリュームをいっぱいにして、「コーヒーおかわり!」 といった具合に非常に演出している。 やがてコッペパン頭のオヤジは、オーネット・コールマンのレコードが始まると、口びるをふくらませて席を立って店を出て行った。 「ロンリー・ウーマン」心の中がすっからかんの俺にはぴったりだ。 淋しい女の喜怒哀楽を詰め込んだようなオーネット・コールマンのサックス音。 (続)
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