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2019/04/22(月)
市議選挙候補者
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夢の中の殺人 2
この心配はとうとう事実となって現われた。要次朗の美貌は同性の心を動かすよりも異性の美代子の心を動かしてしまったのだ。 彼がO亭に来てから2、3日のうちに、既に雄二は、美代子が要次朗をチヤホヤするのを見てしまった。ただそれだけならまだいい、美代子は今までの態度を全然変えてしまったのだ。 雄二は彼女から見向きもされなくなって来たのである。無論、彼は煩悶し、焦慮もした。そしてその苦しみの中にあって彼は頼りらない物に頼った。 それは要次朗が、まだ若くて割りあいウブだと言う事と、彼が非常に真面目な青年だと言う事だった。 しかし雄二の頼みは忽ち裏切られた。要次朗がまだ若く、ウブで真面目である事が尚いけなかった。生れて初めて、都会の美人に惚れられた(と少くとも要次朗と雄二は考えたが)要次朗は、間もなく彼女の媚態に陥って、彼の方からもかなり積極的な態度に出始めて来たのである。 そうやって雄二にとっては、悩みの月日が過ぎた。勿論彼はあらゆる手段で美代子の気持ちを自分の方に引っぱろうとした。けれどもそれは完全に無駄骨に終わったのである。 けれど彼は自分の心持ちと、かつて自分に対して取っていた美代子の態度からして、まさか彼等が完全に許し合っているとは信じなかった。また信じたくもなかった。 しかし、この彼の考えを根柢から動かす様な事が最近ついに持ち上ったのである。今から約1週間程前のある夜中だった。 従業員6人程が生活している(勿論雄二・要次朗・美代子ら3人も含め)1DKに2人ずつの相部屋生活をしている寮で、いつもは昼の労働に疲れ切って――読書は近頃到底身の入るものではなかったが――死人のように熟睡する雄二は、その夜、午前2時頃、突然の腹痛で眼が醒めた。 彼は暫く半眠半醒の状態で床の中で苦しんでいたが、はっきり眼が醒めると慌ててトイレに飛び込んだ。 そういう場合、誰でも比較的長くトイレ内にいるものである。彼は漸く苦しみが収まったので、一安心して出ようとした。 するとその時2階から階段をそっと降りて来る足音が聞こえて来た。そうして降り切ると彼のいるトイレの側を人が通る音がして、やがて彼の寝ている部屋のドアを閉める音がした。この時雄二は初めてさっき彼が眼を醒した時、いつも傍に眠っている要次朗が床の中にいなかった事を思い出した。 (続)
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