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2018/12/25(火) 湘南道路
        東京の画

 ひとり者は、身の回りの物をバッグに詰め込むと、足早に部屋を後にした。駅まで時々自転車のきしむペダルを踏み込みながら、来るべき未来に向かって気持ちを楽にして、ベルをチリチリ鳴らした。
 今日は晴天だ。しかしひとり者は、天気がいいから出掛ける気になったのではない。
いつも穴倉のような部屋でジャズを鳴らしていて、いつ完成するかも解らない油絵を前にして、見えない世界の尻尾を必死に捕まえようと四苦八苦しているのに、やっと先っぽに触れたと思った瞬間、ふとその尾を自ら離してしまう時がある。今までの視点から、少し距離を置いてひとり者は、もう一度見直そうと部屋の中を徘徊し、まるで誰かに自分のハートを握られているような気がしておろおろしとても不安そうな目になってしまう。早くその場から次の場所へ移りたくなって矢も盾もたまらなくなり、結局は空虚な想いを止める為の散歩に出掛けてしまうのだ。
 散歩!いい響きだ。
 気の向くまま少しの酸素と、埃でいっぱいの大気中を無数に飛びかうメッセージの中を、小さな歩みを繰り返し繰り返し、ひとり者はこれから何処へ行こうとしているのか。
街には、失われつつある過去の残滓を求めて不特定多数の人々が集まる。おしゃうべりに夢中で横顔をちらつせるだけで、正面をこちらに向けようとしない人々。ひとり者は立ち尽くし、不特定多数の人々に向かって遠いほほえみを投げかける。ぎこちない不覚の涙が頬をつたっていたとしても、誰も人々の中に気がつく人はいない筈。
奇異な音や、やたら視覚を刺激する光に溢れる街。
「みんなと同じ」を合言葉に平らにならされ、巨大な資本に操られてしまっている街。
 ひとり者は、雑踏から少しずつ離れて行き、いつしか広々とした空き地に出た。四隅に廃棄物の山があり、周囲は高いコンクリートの塀で囲まれている。実に閉鎖的な空間だ。
人の姿や影は見あたらない。他の虫ケラや猫や植物は、廃棄物の下でひっそりと生命を保っていて、時々迷い込んで来る人間の影を踏むのを唯一の楽しみにしているようだ。
ひとり者はしばらくの間ポカンとした時間をそこで過ごし、
「仕事なんて辞めちゃって、近くに旅行でもしようかなぁ」
なんて平和的な事を、思った。
                            (了)


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