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2019/04/27(土) 駐輪禁止
              夢の中の殺人 7
 
 電車が御茶ノ水辺りを走っている頃に彼の脳中を駈け回っていたのは、全く他の事だった。
「気狂いが刃物を抜いて来たらどうする。殴り殺しても構わないか」
と言っていたあの大道法律家の言葉が又頭に浮んで来た。 その夜彼は寮に帰ると、兼ねて集めていた講義録を盛んに引っぱり出して何か頻りに読み耽った。夜更けまで、その講義録の中の数行が目にちらついて消えなかった。それは次の文字である。

正当防衛ハ不正ノ侵害ニ対スルコトヲ必要トスル。而シテ不正トハ其ノ侵害ガ法律上許容セラレヌモノデアルコトヲ意味スル。故ニ、客観的ニ不正デアレバソレデ足リル。責任無能者ノ行為、犯意過失無キ行為ニ対シテモ正当防衛ハ成立スル。
  
次の日から雄二の頭の中は殺人計画に没頭した。彼が前の日上野を散策中に
「殺っつけちまおう」とは言ったが何等の用意はなかった。しかし最早、犯罪の種は彼の頭の中で芽を出し始めたのだった。 雄二が真面目である事、固い事、が彼をして犯罪人たらしめない、とは不幸にして言い得ない。
彼が法律を多少知っている事が彼をして決して犯罪をさせないとは尚言えない。そうして一番不幸な事は、要次朗さえいなくなれば美代子が再び彼に好意を見せるだろうという極めて単純な、いわば無邪気な考えを雄二がどうしても捨てられないという事である。
 いかにして要次朗を殺すか、いかにして、法の制裁を逃れるか、これ以外の事は問題ではなかった。この二つさえ成功すれば、美代子に対する恋も当然成功する様に考えられた。「偶然」が彼に不思議な暗示を与えた。
彼の知っている限りにおいては、責任無能力なる者の行為に対しても正当防衛が成立する。しかして彼の知る限りにおいて要次朗は、ひどい夢遊病である。
夢遊病患者が夢中で犯罪を犯す事は有り得る。現に犯す有様を彼はスクリーンの上でもまざまざと見ている。(もっともこれは夢遊病とは少し違うけれども) 雄二が、彼の法律知識と、映画の印象とをこれから行おうとする犯罪に、如何に連結させない様にするか、この一点に推察されるのである。
 彼は数日の後、ある計画を頭の中で完成した。 1週間程過ぎたある日の夕方、雄二は再び上野に現われた。この時は要次朗も一緒である。要次朗が休日なので、雄二は主人に嘘を言って自分も夕方から出かけたのだった。
彼は要次朗を上野まで上手く連れ出した。これからはかねての計画通りにやらなければならない。 二人は人通りの多い不忍池の傍らに立ったが、不図、雄二はある露店の前に立ち止った。
そこには登山用のサバイバル・ナイフがたくさん並べられている。雄二はそのうちの一つを買い求めた。
「ね、君、これは相当切れそうだね、実はこないだ東京にちょっと来て、間もなくまた帰った故郷の友達がね、護身用に一ついいナイフが欲しいって言ってたんだよ。明日辺り送ってやろうと思うがどうだい、ちょっと手持ち工合は」
雄二は、そう言って要次朗にそのサバイバル・ナイフを手渡して見た。 要次朗は案外これに興味を持っているらしく刃の光るのを見ながら、「うん、こりゃ仲々いい。人でも獣でもこれなら一突きだ」 と答えた。
                           (続)


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