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2019/03/28(木) キッチン078
             ある死 4

 年齢は三十代後半で、臆病質な痩せた蒼白い男だった。大きな陶器商の長男で、もうその主人だったが、未だに独身だという点に、何かの影があるらしかった。
 学生時代に文学が好きだったとかで、時々文学の話を持ち出して、その時ばかりは私は彼を嫌いになった。だが、私が陶器の話を始めると、彼は嬉しそうにいろんな事を聞かしてくれた。一体、自分の職業に関する事柄を他人にあまり話したがらないのは、文学者や哲学者や美術家や音楽家に最も多いようだが、何故だろうか。
平素精神的に余りに苦労しているからだろうか。
 f氏の死を自殺だったかも知れないなどと考える根拠は、実は殆んどない。こじつければあるにはあるが、それは文学的なものに過ぎない様に思われる。
 f氏は当時、家運が傾いて来ていた。
がこの点については私はよく知らない。但し破産とかあるいは閉店とか、そんな状態までには立ち至っていなかった事は、その後も店はなお立派に経営されている事で明らかである。
 f氏には仲睦まじくしている女がいて、それが地元のバー・Jで働いている女、k子だが、地元以外の土地でちょいちょい女遊びをしていた事を私は知っている。それはまあf氏にはk子があるが、お互いに一応独身であったし、大した事ではないかも知れない。
 死の2年前の春頃から、f氏の深酒が、時には自暴自棄かと思われるほどの深酒が始まったとの事である。そして簡単に、私の飲み相手の女の言葉を借りて言えば――
「fさんと交際してたk子さんておかしな人よ。fさんがよく、最後に……終わりにしよう、って言うのが、あんまり度々なので、気になりだしたんですって。最後に、今晩はうんと飲もうとか、最後に、芝居へ行こうとか、最後に……一緒に寝よう、とかそういった調子なんでしょう。そのたんびに、彼女がいやいやいや……て言ってたんだろうと思うわ。それが、その時はそれで済んだけれど、fさんが急に亡くなってみると、あの最後に、と言ってた言葉が気になりだしたんですって。あの時は、これがお別れだというくらいの、ただの嫌味で、また初まったという風に軽く聞き流していたのが、後になってみると、生涯のほんとの最後に……というんじゃなかったかしらって、涙ぐんでるのよ。ああした仲だったんだもの、どっちだったかくらい、初めから分りそうじゃありませんか。今になって泣くなんて、おかしいでしょう。そうじゃないですか?」
               (続)


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