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2019/04/28(日)
ブランチ2
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夢の中の殺人 8 雄二は、もう一軒の店でわりと大き目な鉄の文鎮を求めた。これも友達に頼まれた事にした。彼の計画によればこの文鎮こそ殺人に用いるべき物である。 映画館のスチールを見ながら、雄二は出来るだけ殺伐とした光景を探し回った。そうしてとうとうある日本の古い映画ばかり映写される○○館に要次朗を連れ込んだのである。 彼の見立ては確かに成功した。写し出される映画は皆時代劇だった。殊にある有名な映画俳優が主役になっている映画には、殺人狂とさえ思われる人物が活躍した。その人物は1話を通じて数10人を斬り殺したり、突き殺したりした。 刀がぎらりと閃いて、斬り手の殺伐な表情が大写しになる度毎に、雄二は要次朗の横顔をチラリと見た。要次朗は夢中で、スクリーンの殺人に見入っていた。 「もっと殺せ、もっと斬れ」と雄二は心の中で叫んだ。 要次朗もあるいはそう思っているのではないか。そう推察されてもいい程、彼もまた熱心な観客の一人だった。 彼等がO亭の寮に戻ったのはその夜の10時頃だった。 今更雄二の計画を説明するのは今更あるいは煩わしい事かも知れない。しかしここに一応それをここで明瞭にしておく。雄二は、正当防衛に口実にして要次朗を殺そうとするのだ。要次朗がこれ迄、夢遊病の発作に襲われた事は多くの人々が知っている所である。 現にO亭における要次朗の部屋(即ち雄二と要次朗の相部屋)には危険な物は一切置いてはいない。しかも、店に勤めてから2ヶ月しかならない間に彼は、時々夢中遊行をしている。 その中の一回は現に彼が見ている。 だからその夜、仮に要次朗が発作に襲われたとしても決して不思議はない。そうして夢中で傍に寝ている雄二に斬りかかったとしても必ずしもあり得ない事ではない。 ただ従来、斬ってかかるような物が置いていない。それ故、雄二は一振りのナイフを求めたのである。 調理場においてある包丁の様な物はいつも見慣れいるから恐らく要次朗に深い印象を与えないだろうい。それ故、雄二はわざわざナイフを買った。そして要次朗にはっきりと印象を与える為に度々見せたり持たせたりした。 更に、その夜、発作を起す近因として殺伐とした映画を十分に見せた。要次朗は非常に熱心さでこれを見た。 医者でない雄二にはこれ以上の手段は思い付かなかった。そして、これで十分だと信じたのである。 彼が何故にナイフを求めたかと言う理由は、一応要次朗の所に説明がしてある。もとより出鱈目ではある。故郷の友人を調べられればすぐバレる嘘である。 しかし彼はその嘘を要次朗一人にしか語ってない。要次朗が殺されてしまえば、彼は調べられる時、何とでも他に出鱈目の理由を言えばいいわけである。又、文鎮を求めた理由もそれと同様なのだ。 二人が映画館で時代劇を見た事を立証する為に彼は2枚のチラシを大切に持って帰って来た。しかして彼等が確かにその夜映画館にいた事を出来るだけはっきり証拠立てする為に、彼は数本の映画の場面とストーリーを十分に覚えて来た。 更に、どの映画が何時に始まったか、どれが何時に終ったかという事まで時計を見て調べて来た。この最後の小細工は実は甚だ拙劣である事を直ちに理解されるだろう。 (続)
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