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2019/01/06(日) PUPUS
     会話の途中    

 あの日、原っぱのすすきの穂の束がとても綺麗だった。僕と彼女が摘んできた穂が風に揺れ、それを目を細めて見ていた。食べ物の焦げたにおいがどこからか匂って来る。僕たちはすすきの中へしゃがんだまま、自転車を間に挟んででおしゃべりをしている。
  「最近、映画を観なくなったなあ。」
  「だめよ、観に行かなくちゃあ。」
  「本も読まなくなったなあ。」
  「一日2ページでもいいから、何か読むといいわよ。」
  「そういえば、胃はもう大丈夫?時々シクシク痛むって言ってたけど。」
  「胃?ああ、もう大丈夫。年に1回ぐらいそういう事言うのあたし。
   あなたの顔ってサドルみたい。軋んでいて、滑らかで。」
  「君の額だってグリスで汚れてるよ。おまけに耳は変速機の様にピクピク動く。」
  「あたしの耳よーく見てよ、とても形がよくて綺麗でしょ。輝いていて、別の生き物みたいでしょ。」
  「そうかなあ、とても眠そうに見えるけど。大事にね。」
   彼女はGパンについていた土埃を両手で払い落としながら立ち上がり、タバコに火を点けて、くわえタバコのまま、背伸びをしながら、言った。
  「やっぱり自転車、捨てられないね。」
  僕達は、新しい自転車を1台買ったので、古い1台を処分しに来たのです。
  「あたし古いのに乗るから、あなた新車に乗りな。」
  「僕は古いのでいい。君は毎日通勤で駅まで乗るんだし、買い物かもたくさんするし。」
  「2台あって、けんかする事なくなるね。」
  タバコの煙が彼女の黒髪の中へ吸い込まれて行く。
  
  赤いフレームの上に水滴が薄い膜を張り、いくら目をこすったって元の色が見えてこなくて、時々通る車のテール・ライトに照らされ鮮やかに熱くなった。雨が止んだ後も微熱にしばらく苦しんだ。
ブレーキだってそうよ、とても効かないんだもの。最初は怖くて、よっぽど修理に出そうかなんて言ってたけど、慣れてくると平気。ブレーキした時のすーと滑って行く感覚がたまらない。そのズレを楽しむようになっちゃったもの。

 最近ずっと、彼女は古い方の自転車を手放さなくなっている。
冬になってもマフラーを首に巻いて、錆びて軋んだ自転車に乗って、あちらこちらと走り回っている。
                            (了)


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