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2019/01/07(月)
サイゼリヤ
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感触
コットンの香りのする部屋の中、甘いジュースで口の中を少し湿らせて外に出、風の中に無数の電波が飛び交っている中を歩き始めた。 ジュースはだんだん体内に沁みて来、私をそっと内側から包んで行く。唾液と一緒に、水たまりの中にジュースを垂らす、誰も見ていない、それは一体いつの事。 あなたの心の中で、何がもやもやしているの、私がそう尋ねると、あなたはいつだってもやっている、とごく自然に答える。でも、もういいじゃないの。少しずつ息をして、少しずつタバコ吸って、少しずつゴハン食べて、前置きもなしに生きて行ってみては? 今日部屋ので足をバタつかせて、ダンスのつもりで動いてみた。別に気分が良かったわけじゃなく、実はおしっこに行くのをガマンしてみただけなんだ。 私もそういう事よくするの。尿意を催した時にすぐトイレに行かないで、少しガマンしてみるわけ。しばらくすると、二度目の尿意が来て、座っていられなくなる、3度目は立っていられなくなって来て、ダンスみたいに動く。そのサイクルが短くなって来ると、尿意と尿意のただ中でハイスピードで何かを考えたり、レコード棚を整理し始めたり、ふだんはやらない事をしたりして気を紛らわし、放物線に思いを込めて自然に出来るようになってしまうわ。 この間の日曜日、街を歩いていてある人とぶつかった。私はその時、トーストにジャムをぬろうか、マーマレードをぬろうかと頭の中で迷っていたら、出会い頭にゴツンと一発ぶつかったんだ。その時、その人の口から、朝食べたキュウリの漬物がポンッと飛び出した。目を丸くした私はキュウリの一片にハッとした。その人の口から出て来たキュウリをどう処理したらいいか、お互い判らない。 久しぶりだね、こんにちは、痛かった、大丈夫、どこ行くの、ごめんなさい、いいお天気ね、びっくりした。 それから何事もなかったかのようにその人と別れた。アスファルトの窪みに収まったキュウリは 「なんだか腹が立つな。」と思ったかどうか。 草の中で自転車が寝転んでいる。錆びたフレームに触ると、ザラザラしてていい気持ちがする。ふやけ切ったサドルから柔らかい気体が立ちのぼり、座るとひんやりした感触がして落ち着く。 でもその自転車はとても疲れていて、押して歩く私にも疲れが伝わって来る。傍らには壊れたもう1台の自転車が立っている。 急にここにいる事がとてもつまらなく感じて来たので、その自転車を蹴り倒してから一人、草原を微風に吹かれながら歩いている。 私には、風もこの草原もいらない、あのザラザラしたフレームの感触だけで充分だった。 (了)
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