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2019/04/09(火) 北口案内
             北海道の地に

 雪が降ると巷の音が静かになる。私はそれが好きだ。ことに夜が良い。窓硝子に静かに止ろうとする粉雪が電灯の光にキラキラと煌めいて暖炉の火だけが微かに動いている。お茶など飲みながら、背もたれの椅子に凭れかかって、煤け切った天井を眺めていると、いつの間にか夜は更けてしまう。
そんな時は心が静まって、何事にも替え難く好きである。遠くもない駅を出て行くらしい電車の走る音が、何のこだまもなしに遠い遠い感じで消え急ぐと、あとは虚ろで、人の心を内側の深い所で孤独の果てに引き入れる。 北海道の冬には何か流刑地を思わせる強い力がある。平素は紛れているから気が付かないのだが、静けさが支配する暗さの中で、遠い望郷の念が動き始める。
言って見ればそれは激しい光線が反射し合う南の国への憧れである。超現実の光と線とのあやなす、それが深く官能的な絢爛無比な世界への誘ないである。それが余りに強いので自分が縛られた人間である事を思う。
謂わば余りに光線が少なく、余りに薄明が支配する、清く澄みきった静謐の周囲に堪えられなくなるのである。 時に私は薄く汚く濁った、人の気で蒸れる様な場所を強く求める。ジメジメとして陰鬱の深い、物の臭いのたなびく場所をひどく求める。人恋しいのである。
 札幌の街は乾いている。陰鬱は極めて少なく、ひどく明るい。その明るさは清く澄んでいて、人気からは遠い。 雲が厚い壁を作って、暗い翳を宿しながら、銀色に輝く綿毛の繊細さを持って流れて行く間から、覗いた青空の明るく澄んだ色は、東京や大阪や九州には見る事の出来ないものだ。
清く仄かで、人間の気を全く感じさせない。それは神秘に通じ、人を限りなく孤独にする。清潔であるが真空のように冷酷である。何か、宇宙自体を直に覗かせる様な気がする。 私達の文化は、過去には北緯三十度圏の亜熱帯風の世界に作られた。そこではそよ吹く風も人の息吹の様に、春の暖気も人肌を思わせた。もちろん土壌に密着した農業生産以外の所に立った社会などなかったのだから、人々は土地の湿気の中に半ば陶酔しながら、官能を通してばかりの世界を感じていた。
 人と自然とは共存していたが対立はしていなかった。木にも草にも精霊が宿っていて、少しもおかしくはなかった。その精霊から人間の子孫が出て来てもおかしくはなかった。 北緯四十度圏の北海道では自然は人に対立する。人が人らしい環境に生きようとすれば、人は人工的に自然に対して立たなければならない。家一つ建ててても、都会一つを作っても、全てそうである。ここの自然はひたすらに激しい。
その明るさは冷たくて真空である。我々はここでは突き詰めた人生の考え方に追いやられる。                  
天国と地獄とがここでは対立する。神秘と汚辱が、清澄と醜悪とが、神と悪魔とが、智恵と肉慾とが、柔和と冷酷とが対立する。それは、旧日本にはあり得なかった精神の生長の地盤である。
 北緯四十度圏の北海道の自然の見た目が、本州や九州やと違うだけではない。そこでは自然と人間との関係が違っている事を身に沁みて感じないではいられない。つまりそれは数千年の間にアルプスの北側にヨーロッパ文化を育成して行った、あの北緯四十度圏と著しい類似を持った自然である。
そこでは人間は考える葦となって、天につながろうとし、肉感に塗れて、地上に人工の花を開く。北海道にもそう言った人間の野望が生まれて良いではないか。三十度圏の日本を真似てはならない。 
新しい官能や感覚の歌だけでなく、新しい実存の歌、新しい思惟の歌、新しく神秘に繋がる歌は、北海道から生まれる可能性があると、大変はっきりしているように思う。
                (了)


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