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2018/12/28(金)
三浦青果
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坂道を転がるように 2
2ヶ月ほど前の事である。小夜と隣家の奥さんが一緒に勤めている、町田街道沿いにあるコンビニエンス・ストアで、仕事中、奥さんが小夜になにかと嫌がらせをしてくる。それでも小夜は我慢して、おとなしく抵抗もせず勤めていた。 ある日、小夜がパート・タイムの休日に客としてそのコンビニに買い物に行った時、家の前の長い坂道を上って行く途中、足を挫いて、少し片足をひきずっていた。 店に入ると、商品の陳列の仕事をしていた奥さんが目ざとく小夜を見つけた。 「あらまあ、休日にわざわざ足を引きずってお買い物?」と忙しさにタオルで汗をぬぐいながら、言った。 時刻はお昼少し前、小夜としては店が混みあってくるであろう昼時を避けて、手早く買い物を済ませるつもりで行ったのだったが、奥さんには邪魔者が来たとでもいう感じに思えたのだろう。小夜は帰って来て 「あたしは何も悪い事しないのに、隣の奥さんが嫌な事ばかりする、あたしもうあのお店、辞めてしまいます!」と宣言した。 また別の日は、奥さんはこのアパートの玄関先にやって来て、ゴミ出しの事や(清掃車が回ってくるのが午後3時過ぎなので、なるべく午前には出すなと言う)勤めがあるこっちとしては午前にしか出せないのだ。また、アパートの入り口付近が掃除されていない、夜鳴らしているジャズがうるさい(7・8時頃)などの文句を言って帰っていった。アパートの住人はこれだから困るとすて台詞を残して。 「ヒステリーなのかね、あの奥さん。」 純一が応対して怒りがこみ上げている小夜の気をしずめる為、そう言って慰めた。 小夜としては、隣同士で、同じ店の同僚として仲良くやりたいと思っているのだが、奥さんとしては、さらさらそんな気持ちはないようだったのだ。 その後、小夜は別のスーパー・マーケットのバック・ヤードでの仕事が決まり、元気に働き始めた。 そんなある日、別離は突然やってきた。夜純一が現場仕事から疲れてアパートに帰って来てみると、テーブルの上に一枚の置手紙があった。 「もうこの部屋には住みたくないので、実家に帰ります。」 具体的な事件には触れない、ただそう簡潔に書かれた文だった。また隣の奥さんに何か言われ、怒りがピークに達したのか。 小夜の実家は、原発事故による影響が未だ残る福島県南相馬市の避難住宅で母親がひとりで暮らしているのだ。 形見の鞄もなくなっている、このままこの部屋にいては、迎えに行っても戻らないだろう。別の部屋を借りるにしても、最低でも1ヶ月近いタイム・ラグは生じるだろうし。どうしたらいいものか、純一は冷蔵庫から缶チューハイを一本出し、プシュッと栓を開けてから、考えた。どうしたものか・・・・。 (了)
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