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2018/12/31(月)
川柳もどき  11


目が覚めて 朝日拝んで また暮れる

捨てた身を 拾う者ありや 待つ身かな

サンタとて 素通りしてゆく 我が傍を

飲んだとて 昔の栄華 忘られぬ

ちらほらと 散ってゆくなり 枯葉かな

道尋ね 彼方と教わる 悪路かな

見返りを 求めず尽くす 女の愛

2018/12/30(日) エメロード
空地

2018/12/29(土) 露店
正月飾り

2018/12/28(金) 三浦青果
    坂道を転がるように 2

 2ヶ月ほど前の事である。小夜と隣家の奥さんが一緒に勤めている、町田街道沿いにあるコンビニエンス・ストアで、仕事中、奥さんが小夜になにかと嫌がらせをしてくる。それでも小夜は我慢して、おとなしく抵抗もせず勤めていた。
ある日、小夜がパート・タイムの休日に客としてそのコンビニに買い物に行った時、家の前の長い坂道を上って行く途中、足を挫いて、少し片足をひきずっていた。
店に入ると、商品の陳列の仕事をしていた奥さんが目ざとく小夜を見つけた。
「あらまあ、休日にわざわざ足を引きずってお買い物?」と忙しさにタオルで汗をぬぐいながら、言った。
時刻はお昼少し前、小夜としては店が混みあってくるであろう昼時を避けて、手早く買い物を済ませるつもりで行ったのだったが、奥さんには邪魔者が来たとでもいう感じに思えたのだろう。小夜は帰って来て
「あたしは何も悪い事しないのに、隣の奥さんが嫌な事ばかりする、あたしもうあのお店、辞めてしまいます!」と宣言した。
 また別の日は、奥さんはこのアパートの玄関先にやって来て、ゴミ出しの事や(清掃車が回ってくるのが午後3時過ぎなので、なるべく午前には出すなと言う)勤めがあるこっちとしては午前にしか出せないのだ。また、アパートの入り口付近が掃除されていない、夜鳴らしているジャズがうるさい(7・8時頃)などの文句を言って帰っていった。アパートの住人はこれだから困るとすて台詞を残して。
「ヒステリーなのかね、あの奥さん。」
純一が応対して怒りがこみ上げている小夜の気をしずめる為、そう言って慰めた。
小夜としては、隣同士で、同じ店の同僚として仲良くやりたいと思っているのだが、奥さんとしては、さらさらそんな気持ちはないようだったのだ。
 その後、小夜は別のスーパー・マーケットのバック・ヤードでの仕事が決まり、元気に働き始めた。
 そんなある日、別離は突然やってきた。夜純一が現場仕事から疲れてアパートに帰って来てみると、テーブルの上に一枚の置手紙があった。
「もうこの部屋には住みたくないので、実家に帰ります。」
具体的な事件には触れない、ただそう簡潔に書かれた文だった。また隣の奥さんに何か言われ、怒りがピークに達したのか。
 小夜の実家は、原発事故による影響が未だ残る福島県南相馬市の避難住宅で母親がひとりで暮らしているのだ。
形見の鞄もなくなっている、このままこの部屋にいては、迎えに行っても戻らないだろう。別の部屋を借りるにしても、最低でも1ヶ月近いタイム・ラグは生じるだろうし。どうしたらいいものか、純一は冷蔵庫から缶チューハイを一本出し、プシュッと栓を開けてから、考えた。どうしたものか・・・・。
                          (了) 

2018/12/27(木) 団地工事中
      坂道を転がるように 1
 
 四月初旬のある日、純一と小夜は、思いもよらない隣家とのトラブルに巻き込まれて、住んでいた町田の工務店の事務所の二階からわずか一年で出て行く羽目になった。裏の物干場の上にまで枝を張っている隣家の庭のドウダンツツジの稍や枝が延び切ってても、隣人の無視っぷりったらない。 純一が東京から遠く新潟県の田舍に妻とまだ幼い子供を残して小夜と駈落ちして来てから滿一年に満たない日々を周囲から樣々な迫害や中傷を受けてから、日陰者的な思いに陥り、なるべく目立たない様に暮らして来た。彼らは郷里から遠い、みすぼらしいこの部屋に馴染もうとしていたことか。前の住人による煙草に汚れた黄色い壁に向って、これまでの生涯や過去の行動の罪悪感にうなされる晩を送りながら。
 純一は半年前から多摩ニュータウンの方にある測量会社に、この頃懇意になった知人の紹介で入社することが出来た。測量会社といっても、埋蔵文化財の発掘調査・支援が事業の大半を占める会社である。彼は歓喜した。上京して間もなく勤めた発掘会社の、あの親方あがりのたくましい、強欲な会社の専務に牛馬同樣こき使われていたのと比べ、今度は閑散とした勿体ないほど暢気な勤めだったから。しかしそれも束の間、場慣れしていないのも手伝い、付け焼刃で学んだ程度で歴史に疎く、愚図で融通の利かない彼は、忽ち同輩の侮蔑と嘲笑とを感じて肩身の狹い思いを忍ばねばならなくなった。所詮は、みな身から出た錆であった。純一は世の人々の同情にすがって手を差伸べて日々の糧を得るこじきのように、毎日朝から晩まで、あちこちの著名の考古関係者や調査員を頼り手紙を出し、或る時は訪ねて膝を地に折って教えを請うた。が知恵の足りなさから執拗に迫って嫌われ、すげなく拒絶されることもあった。彼はひたすら自分を鞭うち励ましたが、自分自身の気性の弱さによる僻みから、夕暮が迫ってくると、思い悩んだ眼差しを古ぼけた野球帽のひさしに隠し、やるせない気持ちを感じながら、小夜の待つあの暗い四畳半二間へ帰って行くしかないのである。
彼女との会話が、煩しい束縛から、闇を引きずる太い鎖をぶら下げる様な日常とも、決別するものに最近はなっていた。そして深夜、深いい吐息を吐き、鈍い目蓋を塞いで、眠れるのを待つばかりであった。
或る日、社で受託し、純一が初めて担当する事になった現場の打合せから早目に帰って来た夕方、純一の苛々した声を出した。
「そんな事できるわけないだろう! まだ引越して来て一年も経っていないのに!」小夜はそれに反応し「良い部屋が見つかり次第、何時でも引越せるようにと思って…」と小声で怖々言い、蒼ざめた顔を上げげつつ眼差しを彼に向け、そして片付けていた旅行鞄のチャックを閉めた。 その鞄は亡くなった父の持っていた彼女へ渡された形見分けだった。目ぼしい金目の物は親類縁者に持って行かれてしまったが、その鞄は、父が壮年の時に旅した中国やロシアや東南アジアまで持ち歩いていた古ぼけた大型の旅行鞄だった。 
 さっき苛々してて咎めてしまった後の、愛おしさと申し訳なさが彼の心の中に広がっていた。         
純一と小夜は、住み慣れつつあったこの四畳半をなるだけ早く離れたい一心である。引越しは一刻の猶予も出来ない精神状態にはなっていた。      
                        (続)

2018/12/26(水) ABCバル
川柳もどき 10


明けぬ夜 明日につながる 星の空

雪ン中 男の足でも 大儀なり

雪や雪 積もれば足止め 食うだろに

泥まみれ 汗光るなり 現場もの

孤独にて 花に求める 愛情を

酔うたとて 我を忘れる ほどでなし

ともし火に 祈りを込めて 明日の身を

2018/12/25(火) 湘南道路
        東京の画

 ひとり者は、身の回りの物をバッグに詰め込むと、足早に部屋を後にした。駅まで時々自転車のきしむペダルを踏み込みながら、来るべき未来に向かって気持ちを楽にして、ベルをチリチリ鳴らした。
 今日は晴天だ。しかしひとり者は、天気がいいから出掛ける気になったのではない。
いつも穴倉のような部屋でジャズを鳴らしていて、いつ完成するかも解らない油絵を前にして、見えない世界の尻尾を必死に捕まえようと四苦八苦しているのに、やっと先っぽに触れたと思った瞬間、ふとその尾を自ら離してしまう時がある。今までの視点から、少し距離を置いてひとり者は、もう一度見直そうと部屋の中を徘徊し、まるで誰かに自分のハートを握られているような気がしておろおろしとても不安そうな目になってしまう。早くその場から次の場所へ移りたくなって矢も盾もたまらなくなり、結局は空虚な想いを止める為の散歩に出掛けてしまうのだ。
 散歩!いい響きだ。
 気の向くまま少しの酸素と、埃でいっぱいの大気中を無数に飛びかうメッセージの中を、小さな歩みを繰り返し繰り返し、ひとり者はこれから何処へ行こうとしているのか。
街には、失われつつある過去の残滓を求めて不特定多数の人々が集まる。おしゃうべりに夢中で横顔をちらつせるだけで、正面をこちらに向けようとしない人々。ひとり者は立ち尽くし、不特定多数の人々に向かって遠いほほえみを投げかける。ぎこちない不覚の涙が頬をつたっていたとしても、誰も人々の中に気がつく人はいない筈。
奇異な音や、やたら視覚を刺激する光に溢れる街。
「みんなと同じ」を合言葉に平らにならされ、巨大な資本に操られてしまっている街。
 ひとり者は、雑踏から少しずつ離れて行き、いつしか広々とした空き地に出た。四隅に廃棄物の山があり、周囲は高いコンクリートの塀で囲まれている。実に閉鎖的な空間だ。
人の姿や影は見あたらない。他の虫ケラや猫や植物は、廃棄物の下でひっそりと生命を保っていて、時々迷い込んで来る人間の影を踏むのを唯一の楽しみにしているようだ。
ひとり者はしばらくの間ポカンとした時間をそこで過ごし、
「仕事なんて辞めちゃって、近くに旅行でもしようかなぁ」
なんて平和的な事を、思った。
                            (了)

2018/12/24(月) 初詣
住吉神社

2018/12/23(日) 木製電柱
         文明のその先

 元来、人間というものは、頭の中が一つのものにこり固まってしまいがちだ。
この世の中は一つのものにこり固まっている方が生活しやすいようになっているようだ。例えば、昔、軍隊、今アベ自民党、一方に流され、ヒステリー状態になってしまう。坂道を転げ落ちるように走り出し、気がついたときにはもうとりかえしがきかない。独喰らわば皿まで、止まる所まで転げ落ちてしまえ、と中ばヤケクソになってしまう。こういう傾向は公明党が天下を取ろうが、共産党が天下を取ろうが変わらないだろう。
 日本人の群属意識は、たとえいくら新しいものを、欧米式の下着を身に着け、合理性に富んだ機械式主義・思考の靴を履いて世界へと飛び出してみて、ドルだ円だと資本主義的金儲けに熱中してみても、一皮むけば先祖代々の顔が現れて、たった今まで大騒ぎしていた事をきれいさっぱり忘れ、日本株式会社に奉じてしまうだろう。
 昔、大本営発表、今、政府発表、これはどちらも眉唾ものだ。日本の為に、人類みな兄弟の為に政治・経済・神仏等がこの社会には不可欠とさかんに説かれているが、果たして必要なものか、単なる自己保身の為の道具に過ぎないのではないか。政府やマスコミに調子よく乗せられて一種の阿片に酔っているだけではないか。その阿片に酔うことが文明の進化だと思い込み、その深みにはまってゆく。その先には一体どんな事が待っているのだろうか。考えると恐ろしくなってくる。
 地面に這っているアリ、空に舞うチョウや鳥などの自然界ではなんという事もなく日々過ぎているのだろう、人間社会で行動し、有象無象が闊歩しているのを迷惑千万だと思って見ている事だろう。
 現代の進歩とは、理性的であり、より合理性と明晰性を持ったものの先に、人間の目指す位置へと自己完結させる目標にしているとすれば、その先に見えてくるものは、人間も自然界の一部に過ぎないという事だろう。人間が万物の霊長だなどとお高く止まっていないで、所詮人間も生き物、アリやチョウと同じ生物界の法則に則って生きているという事を今一度考えて見る事だ。  
                         (了)

2018/12/22(土) ブランチ2
クリスマス・ツリー

2018/12/21(金) 下町
自治会掲示板

2018/12/20(木) 総合事務所
死の値打ち


 家系だ血筋だと言う人を見ていると、人を淋しくさせる。家系というもののうちの生は単位ではなく死が単位になる。死の数珠つなぎが家系である。死というものはばらばらなところが値打ちになる。それを家系や血筋で繋ぎあわせてどうする気だろうか。
 「死者を敬う」という態度がある。
「死者を冒涜する」という態度がある。
 死者への弔意表明・墓参が最重要だと考えている人々が多勢であろう。さして古い文化でもないようだが、墓前に静かに合掌する姿は確かに尊い。しかし墓参しないのがこれ以上ない悪のようにいわれるのにはちょっと待て、と言いたい。
 戦没者遺骨収集とか、戦地集団慰霊などというものには、待ったと言いたい。
何故かと言うと、彼らは自分たちがやっている事を心底信じてはいないだろうからだ。
彼らは言うだろう「戦死者のお骨はそこにあっては浮かばれない、こちらにあれば、浮かばれる。」
なぜそこでは浮かばれないのか?
「そこには彼らの霊を弔う人がいない、弔うべき我々はここにいる。」
生き残った人々のつとめである懺悔、というと確かに御立派だが、要するに彼らは怠け者なのである。死者への祈りはやはり現地で行うのが本当だ。
 人間が欲しいものは線香の煙ではなくナンミョーホーレンゲキョでもナムアミダブツでもない。食物と酒と男なら女、女なら男、それにタバコ、といったものだろう。
大事にして欲しいのは自分の遺骨ではない。時には醜悪にも見えるであろう肉に包まれた生身の身体だ。
 戦場の一兵卒として、犬死にでも殉死でもない死、病院のベッドの上で死ぬのだけがまともな死ではない、死は死だ。
 死の数珠玉に腐っているのがあると、血がつながらない、として自殺者や生前の職業が悪かった者を正式に弔う事が許されず、家系から排除される。家系血筋の中にはればれと弔ってやれない死者が出ると困る、と言うことらしい。数珠球のひとつが腐っている、という解釈になるのだろう。それがお家大事、家系大事の人の頭を悩ませるらしい。男の子を一人しか生まなかった奥さんなどは大層嘆くのだろう。後ろでは「××の姓だけは絶やさないでくれ」と言う脅迫が存在しているのだから。
{血信仰}というものが現代にもまかり通っているが、それを破るには血のきたなさ・おそろしさを知る事から始めるべきだろう。血とはキタナイものだ。
  個体である我々は必ず死ぬ。というより、固体現象であるわれはれは「死」という不治の病を完治できないからである。
                            (了)

2018/12/19(水) DAF
川柳もどき 9

我はとぞ 質してみるも わからずと

ふうてんに 生きたくもあり 生きたくもなし

捨て果てて わが身残るや 冬の海

寒い朝 息吹きかける 相手なく

寒い日に 人待つ気分で 立ち尽くす

朝の陽を 身体で浴びる偶の日よ

寒い朝 コートの中は 誰思う

2018/12/18(火) 湘南オーガニックスタジオ
   一寸の虫にも五分の魂
 
一寸の虫にも五分の魂と言う言葉がある。この私にも当てはまるだろうか。
私にはわからない。いったい、私には魂をかけてやってきたものがあるだろうか。
何かをやろうと行動はするが、その結果周囲には理解しづらい行動となっていき、いろいろな方向へと拡散していく。その行動が自分自身に不快になり、もっと違う生活・幸福がある筈だと考え込み、その自身の行動と考えとのギャップからますます考え込み捨て鉢になる。その考え込む事自体に矛盾と不快に陥り、「なぜこんな生活を続けていかねばならないのだろうか?」となる。
 何につけても私にはやり遂げたという事が一つでもあっただろうか?全てにおいて中途半端に終わり途中で投げ出し、そんな事ばかりでこんの世の中を暮らして来たのではないだろうか。このように悩み続けて来て今に達している。
生活力に直結したところの裏付けがあっての思想であり一つの考えであろう。私にはそれが欠けていたと思う。表現形式にピタリと当てはまらないままにただ書き続ける、その表現力に、生活力からわきあがってくるものに読む者は歯がゆさを感じ、素直に伝わらないといった事だろう。「私には仲間がいない、国家も、社会もない。この広い大きな地球に私は一人でい続けなかればならないのだ。」そんな被害妄想を持ち続け、生きつづけなかればならない。禅問答のような、愚痴に対して解答をみつけてしたり顔をすることは許したくない。それら矛盾や悩み中にいる自分自身をこの頭で解決しようとしてかえって混乱を起こす、要は穴が開いて底の底まで煩悩を撒きちらしている現状。
 こう書いてきて、焦りだけが先走って何の結論も出ないままお終いになるのだ。出来るだけましなものを書き遺したいという変な欲?が現れてきたようだ。そして書けないという事をくつがえすほどの勇気も持ち合わせず意志薄弱を晒しているていたらくである。
                                  (了)

2018/12/17(月) 反省と表現と
       反省と表現と


私の頭やからだの中にはたくさんの滓が溜まっていることだろう。何億年とも知れない間に自分という人間に遺伝されてきたさまざまな血と肉、すなわち細胞の集積。
私はもはや、それらを全部ここに吐き出してしまいたい。どんな滓であっても一切排泄することができたら、どんなに気持ちがいいだろう。ただその為には、自分というものを潔く察して、俎上に乗せて残酷な解剖を試みなければならない。
「汝自らを知れ」
この言葉には、反省する人間の態度で、ひとりひとり異なってくるものだと思う。所謂、 悟りにまで達する人は稀であるだろうし、私のような凡人は、自分の苦悩がいっそう深くなって行くものである。
 年を経るにつれ、自分の醜さ狡さ、非力と無能さが自覚されてくる。いやになってくるが、私は辛いながらももし長生きが出来、素人写真ともの書きに対する熱意を挽回することが出来たらと考えている。働くことが無理な今、こうして書くことすらできなかったら、とっくに自死したほうがマシだと考えている。
私は自分の人生に対する考えや物の見方、愚かな行為はすでに幾回か書いてみたし、自分の分身を立てて創作してみた。それらを読んだ人たちが何人いるかは関係なく書いた。
 私は自分の現在のありのままの考えと姿を出来るだけ率直に表現することで存在が許されていると思っている。
  
                            ( 了 )

2018/12/16(日) 幸町
クリエイト

2018/12/15(土) コンビニ
ローソン+スリーエフ

2018/12/14(金) アイスクリーム
       行き先不明のまま

 濡れたトタン屋根の軒下には猫が一匹実にのんびりとした態度で、伸びたヒゲを撫でながら風に揺れる草をチャンと見ていた。そのそばには彼女が、ブルーの澄んだ瞳をして素足で立っている。サンダルはあそこのポストの下にひとつ。もう片方は、牛乳ビンの傍らに転がっている。
 彼女の白い足は陽の光を吸収してどんど熱を帯びて来た。そして、傘が開かれる音を待っているかのようだった。
 空は見る見る飛ばされて行って、しばらくすると大粒の雨が降りだし、部屋の中まで容赦なく入って来る。
 夕立?
 彼女は少し口を開き息を僕に投げた。しばらくすると、彼女はポケットに手を突っ込んだまま軒下に駆け込み、同じく軒下でまあるくなってゆく猫を横目でチャンと見ていた。
僕は、彼女の白い足に泥がハネ上がる瞬間が嬉しくて、口の中で舌が動くのを感じ、そのまま唇を舐めた。それは花よりも美しい、と思ったのも束の間、さっき彼女から僕に投げられた言葉が耳元で再生される。
「これから先はどうなるかわからない。」

 こないだの夜、真夜中まで雨が続いた日、2時頃に空がピカリと光ったと思ったら、それが雨の上がる合図だっだんだ。僕はその時、片手で頭を抱え込んでいたんだ。そしてその瞬間に思ったんだ。次いつ雨が降るかわかんないけど、その時のためにしっかりと出来のいい傘を1本買っておこうと。
 或る朝ベッドの上で足を伸ばして休んでいると、どこからか話し声が聞こえた。それは僕のひざ小僧からだった。耳を近づけてみると、彼女と猫の声だった。僕はピクリともせずに、興味をもって聞いていた。
 「ねえ猫チャン、あたしと一緒にペルーの山で骨を折っていくつも制覇してみない?」
 「ニャンノット・それより子供達のあとを追っかけて火をつけて回ろうよ。」
 「それじゃあ競争よ、負けるわけにはいかないわ。」
 
 僕は急に、セロニアス・モンクはキッチンにピアノを置いていたのを思い出した。
僕もモンクのように、これからはキッチンに紙を広げて絵を描こうと思った。それにポリバケツと青い水。
 別に意気込むわけじゃないけど、
 彼女と猫と並んで生きたい
 という気持ち。
                           (了)

2018/12/13(木) セオサイクル
川柳もどき  8


勝ち投手 手柄を仲間に 分けてやり

堂々と 胸張る奴の 小物感

独りして TVと向き合う 年の暮れ

ジャングルで 血を流したる 戦なり

旅の衆 笑顔あふれる 道すがら

道具屋の 店先に並ぶ 刃物かな

父母は失せ 我独りにて 枯野立つ

2018/12/12(水) 海辺の小さな町で
     海辺の小さな町で

 その日、雄二は少しうらやましくもあった。10〜12才程度の子供たち4〜5人が海の中へ素もぐりでトコブシや海草を取っていて、取れるたび楽しそうに騒いでいる。
雄二は泳げないのだった。小さな漁港である。もう今日の水揚げは終わったのか閑散としている。港内の海は子供たちの格好の遊び場と化していた。貴重な海産物を取っても咎める者はひとりもいないのだ。その漁港の対面にある小さな商店街、おそらくこの町で唯一の繁華街であろう。一本の細い路地、それが商店街であるが、シャッター街となっている。鯵や小魚を干物にするために店先に干してある魚屋、古い物ばかり置いてありそうな雑貨屋、そして漁師たちの社交場なっている床屋、そんな店が点在している。
ドブ板のその先は、歓楽街がありそうだ。と言っても、スナックやバーが3・4軒ほどだが。
 漁港前の、県道をはさんでその一帯はある。赤く色塗られた小橋を渡る手前から狭い道へと入り込み、ゆるい勾配の坂を登ると、大きなコンクリートの煙突が何本も立っている。おそらく魚の加工場であろう。その煙突の群れが終わったあたりから丘のように盛り上がった土地になり、中腹に白いペンキ塗りのみすぼらしい建物が見えて来た。
 ぐるりと漁港のほうを見下ろすと、どんよりした灰色の砂浜と防波堤が見えた。ここまで登ってきたくらいで疲れてしまったか、膝のバネが緩んでしまったかのような足取りでここまでたどり着き、海へ注いでいる小川の川尻を見ながら、雄二は思う。小さなトタン屋根の家がゴミゴミと建て込んでいる町唯一の住宅街、ここにも人間たちの日々の屈託があるのだろう。歓楽街にでも行ってみようか、何かが起きるかも知れない。
 今度は今登って来た道を下り始めた。建て込む通りを下りて、間もなく県道を目の前の川沿いを曲がり、ドブ板に沿って少し歩き、タバコ屋の角から狭苦しい路地へ入った。子供相手であろう駄菓子屋の軒先すれすれにその駄菓子屋の店先も過ぎ、小さなコンクリートの塀で仕切られた2軒ほどの飲食店。ここも未だ街の一角である。まだ時間が早いので、もちろん店は一軒も開いてない。
 そのうちの一軒、「スナック・月子」と書いた看板の下で、いかにも自堕落そうな40年配の女が、まだ起きてから間もないような雰囲気を漂わせながら、長い髪を梳かしていた。
雄二は声をかけてみた。
「この辺の店は、だいたい何時頃開くの?」
「6時半ぐらいからだねえ」
女は答えた。意味もなく笑顔を見せながら。
まだ5時間もある。
「じゃあ、出直そうかな。」呟くように言って、そこを立ち去った。
 それで終わりである。
 夜になって出直したとして何になる。話題は魚の獲れ高か、大都市の景気の話、それ以外にない。あとは、テレビの話が少しと、先行きの話(これにはちょっと興味がある)
第一豊丸が今季豊漁で、いよいよ第二豊丸を購入するとか。となると船長から、機関長・船員数人が必要になると常連客同士が景気のいい話をしている。
 ここらで俺もいっちょやったるか、、雄二はふとそんな事を思って想像してみた。
                           (了)

2018/12/11(火) ロータリークラブ
川柳もどき 7

足音を しのばせずして 隣人よ

下町で 小心者が 生活し

口で脱ぐ 手袋くわえ 淑女かな

お笑いを 押し付けてくる  TVショー

闇の中 手探りで行くよな 雨の中

今宵酒 待ち人来たらず 夜を明かす

ジャズ聴きて 思索が深く なってゆき

2018/12/10(月) BISQ
川柳もどき 6

夜の面 朝の顔とは 違ってる

猫や猫 お願いだから 足音を

生娘の 仮面被った 悪女かな

俺の時 誰か相手を 捜す夜

カラオケに 興じた唄なぞ 忘れけり

今宵酒 待ち人来たらず 夜を明かす

ささくれて 取り残された 阿呆ひとり

2018/12/09(日) 鮮魚
高橋水産

2018/12/08(土)
PROSTYLE

2018/12/07(金) アヴァンゲールな夜も夜
   アヴァンゲールな夜も夜

ある一夜、深夜鴨が一羽、眠りもせずに水を体に浴びせかけているところに、目の前の古ぼけた一軒家に住みついているシュリップがやって来て、言った。「大変困ったことに世界中がキナ臭くなってきて、一戦ぶちそうで怖い。それに腹が不服だそうだ。甘いメキシコイチゴを喰わせるからその後おまえを喰わせろ」
鴨は言われたとおりイチゴをおいしそうに食べた、食べた食べた。しかし食べながらも胸中はどうやってこの男から逃げられるか考えていた。しかし妙案も浮かばないのでひたすら食べ続けた。
そしてとうとう腹が破れて死んだ。
シュリップは真っ赤になった鴨の腹やその周囲を見て言った。
「これからの時代は、世界中こんな風が吹いて、そこらじゅう血の海になるんだ。」
シュリップは、世界中を追い詰めたという合図の笛を吹きはじめた。
その音、まるでアルバート・アイラーが生き返って、苦しんでいるかのような音だ。
 
 ここまで読んだ時、弟のライナスは笛の音を聴いた。ヒューヒューと風に乗った、まるで母胎から聴こえてくる様な音。ライナスはいままで読んでいた「コウモリ館の風」という本を小脇にはさみ、兄の所へ走った。
 兄は一人、焚き火をしていて、何かを燃やしているようだった。
「笛吹いたの兄さんだろー」
そうライナスが言うと、兄は照れ隠しに、着ていた黒いセーターを丸めて、ポーンと遠くの三角州目がけて投げた。
兄はライナスに焦げた鴨の丸焼きを指さし
「これ全部やるからアッチ行って食べろよ」
と共同住宅の屋上を指した。
 ライナスは夜空に鴨の丸焼きをかざしては、なんだかステッセルと戦ったおじいちゃんと似ているなあ、と思いながらニコニコしていた。
屋上に上ったライナスはさっき兄の許へ本を忘れて来たことに気がついたが、こうして鴨の丸焼きを食べられるんだから別にいいやと思った。
ムシャムシャ食べていたら、鴨の腹の中から、兄がいつも吹いていた小笛が出てきた。もうそろろ腹も膨れてきたので、食べるのをやめ、その小笛を吹き始めた。
 笛の音はライナスの首の周りをぐるぐる回っていたのだが、終いにはパン・アメリカンの国々へ飛んで行った。
その音は兄にも聴こえたらしい。
兄は消えかかった焚き火を抱き寄せるようにしてうたた寝をしていたのだが、笛の音で起こされたのだった。
「おーいライナスう、この本、枕にちょうどいいなぁ。」
「そうでしょう、磁石の様に、頭にピタンとはりつくでしょう。」
「鳥はぜんぶ喰ったかぁ」
「うん、デリシャス!」
 ライナスは油まみれになった小笛の口先を、ジーパンにキュッとこすりつけた。そしてまた、小笛をヒューヒュー吹き始めた。なんだか時々甘いにおいがするなあ、このフエ。
そう独り言を言っては首をかしげていたが、兄が
「そろそろ寝るんだから、笛を夜露に濡らすんじゃないぞ。」と言った。
「兄さーん、夜露なんて知らないよー。もうすぐ春だぁ。」
「春なんて来るもんか。」
「だって笛から甘いにおいもしてるし・・・」
「春なんて来ないんだよ、夜だって明けないかも知れない。」
 ライナスはくやしくて、鴨の丸焼きの残りを食べながら、兄の許へと走って行ったのだった。階段を二段、三段飛びをしながら・・・・。
                           (了)

2018/12/06(木)
   冬

 外は真っ白だ。何年ぶりかの大雪で、首都機能がマヒしている12月初旬、ミキと知りあった。動かない電車をいつまでも待つ、駅のプラット・フォームで。
 徒歩で漸くアパートの部屋へたどり着いたのは深夜、一緒に部屋についてきたミキの心は寒さで沈んでしまっている。眼を閉じていると、隣の部屋からクリネックスを1枚引っ張る音が聞こえる。
その時、ミキは白い紙の上に白い牛乳を広げている。そこには七つの海が出来ているのが見えた。
 翌日、雪もやんだので、起きぬけに牛乳でも飲んで出かけようかと思ったが、ゲイリー・クーパーになったら大変なので止した。ミキはまだ寝ている。
外に出ると、小さな女の子が赤い自転車にまたがって、積もった雪と格闘していた。少しの風でも女の子の髪の毛はフワフワと舞い上がり。髪の毛の間に冷気が入り込み体温を下げる。
眼ばかりパチパチさせながら、その癖視野は狭く、ろくに景色も見えない。いやぁ先日は失礼しました、あいにく手がふさがっていたもんで・・。
頭だけがぐるぐると回っている。
 バスは遅れ気味だ。目をつぶり一心にエンジン音を聞いていると、ニュートラルに入った音が、グアンバレ、グアンバレ、と聞こえる。
 学校に着き、美術教室に入ると、何故かそこの最前列の椅子にはミキが座っていた。
ミキは、パウル・クレーの画集を見ながら友だちといろいろ話していた。ジャクソン・ポロックの顔が写ってない写真を見て「プロレスラーのドリー・ファンクJrとポロックってそっくりだよね。」などと言っている。
笑いながらミキはこちらを見て、目でタバコある?と伺う。
ポケットを四角く膨らませて僕は、ハイ、バージニア・スリムライト・メンソール・セレクト・スペシャルEX!あるよ・・・言えたー!

 カレー、タッパーに入れといたから。
 ウン、ありがと。
 ジャガイモ入ってないから。すぐ溶けちゃうから入れな
いの。
 彼ねえ・・・    
 昨日テレビで殺られちゃた人?
 彼ねえ、ジャガイモダメなの、だから聞いてみたのよ。
 珍しいね、粉ふきイモなら喰えんだろー、バターつけて
さ。
 全部ダメなの。
 ポテチも?(なんだか可哀想なやつだな)
 カレーもそんなに好きじゃないんだって。
 ふーん、今度カレーコロッケ作ろう、黄金分割できちん
と。

    
 遠くで誰かが呼んでいる。
真っ赤に焼けた象の肌、ホコリをいっぱいに吸い込んで、クスクス音がする。(火薬の焦げたにおいが1つ、2つ)
夕日に鼻を持ち上げて、「話を聞いて」と呟いた。
遠くで誰かが呼んでるんだけど・・・。
 雨が降りだしたかのように、みんなスリッパの音をパタパタさせて一斉に席につく。
黒板が胸を張り横たわり、先生の指から白線がすべっては転んだ。何度も転んでは教室は笑いの渦。
 講義の途中、トイレに立った僕はバージニア・スリムライト・メンソール・セレクト・スペシャルEXをポケットにしのばせ、ドアのノブを暖めながら部屋を出て行き戻らなかった。
                         (了)

2018/12/05(水) 独白
  独白

 生きているのではない、生かされている。何も努力してこなかったし、長生きをしたいと思ったこともない。私は自分を怠け者だと思っている。それでも一応のことはしてきたつもりだ。職につき、世の中のベルトコンベアーに乗ってさえしまえば、こんな楽なことはない。その際、周囲からのろまだ、不器用だと罵られても我慢して自分の本性を出さずにその場をあしらって、出来る範囲でこなしてきたつもりだ。
 最近は、朝からぼんやりしている。昨日も、今日も、おそらく明日も。
衣食住も一人分ならなんとかなる、一人分以上に欲しがり欲を出すから他人が迷惑する。
今の世は、すべての物が無尽蔵にあるわけではない。二人分も三人分も、いやそれ以上を求めて欲を出すからどこかにしわ寄せがいき、一人分にもありつけない者が出てくるに違いない。一人分以上を欲するものは泥棒と同じであろう。
  
 私は今、毎日が死出の旅である。明日の朝は眼が覚めないで、旅立つかもしれない。
行き先は? あの世である。
死出の旅だというのに、なんの身支度も用意もしていない。それは、旅の行き先が判っているせいか、生まれながらのグズなせいかもしれない。
                         (了)

2018/12/04(火) 火駕志
川柳もどき  5

日々暮れて 夜ぞ軽々 無能の人

マーケット 行けば目移り うなぎトロ

ジャズ聴いて 昔話で旧交す

あの世界 どの世界かよ 死の先は

冬来たり 寒さに震え 夜怯え

マイルスや 勢いだけの エレクトリック

冬来たり 我独りなり 窓の顔

2018/12/03(月) マチネーあり
        マチネーあり

 今日から君も大人さ。
「サンデー・タイムズ」を小脇にはさみながら、独りスタイルをつくり、歩き出す。
 ユマニストのチャールストン、風が吹く。
 最終バスに乗って知らない街へやってきた。
終点で降りたのは運転手とわたし。スマートフォンで音楽を聴きながら知らない街の暗い舗道を歩く。街灯がないので怖い。人も誰ひとり通らない。静かだ。三叉路の交差点にさしかかった時、黄色いワンピースの女が走っていく、わたしには目もくれず。角のビルの窓にだけ灯りが点いてキラキラと光っている。わたしは羽虫のようにそのビルへと吸い込まれて行く。
自動ドアが開いた途端に思い出した。「そうだ、確か2階にジャズ喫茶があつたはずだ。わたしはスマートフォンで聴くのを止め、2階へ上がって行く。
まだ27才なのに渋谷で路上を見つめて暮らし、子供の時分から友だちなんてひとりもいないし、ツムジが少し曲がっちゃっていたのだ。
 小銭をせっせと貯め、グリニッジ・ビレッジで商売をしている兄のもとへ転がり込み、やりたい放題、ゴールを見つけてやろうか?
いろんなものを吸収し過ぎてブクブクに太っちゃた兄。しかし決して弱音は吐かない。黒人の大男に両足首をつかまれまるで時計の振り子のようにブランブランにされても、商売替えをしなかった。
兄はその時言った。
「俺の商売はインテリが相手だからな。」
最近のアメリカで金正恩を知らない者はインテリではない。
「お天気は下り坂だよう!」子供が街の隅っこで叫んでる。
子供の手をひいて駐車場まで行くのは案外楽しい。はやくはやく、暖かい!
地上の茎が受賞して行き、お天気はくだり坂、劇場のピアノの中はホコリでいっぱい。
リズム・リズム・暖かい!
(セーラー服が好きだなんて序の口だな)
 いつか、ノートに書いた台詞だ。深夜、暗い部屋でノートを広げ、髭をさすりさすり映画の広告を見て書いたものだ。
明日あの広告を剥がしに行こう。
「電燈も消さずにどこ行ってたのー」女に言われた。
「昼飯を買いにさ」
「こんなお天気の日にわざわざ」
「わざわざは余計だ」
俺の弁当開けるなよ、底から俺は食うんだ。
風が強くなって来た。
「雨は嫌い」と言った女。
「俺も雨が嫌いだ」と、風に手を当てながら言った俺。
あいつ・・・・・・雨の中、小劇場の前で待つだろうか。
                    (了)

2018/12/02(日) 誠実さと絶望
         誠実さと絶望

 私は酒のゆえに病気になり、一時的にではあるが生死の境をさまよった。
もとの気質が陰なものであったが、今回の事で余計拍車がかかった。
私の心はくじかれた。
「もういやになってしまった。」
何度となく人に会うたびに言った。ついに車は坂を上る努力をやめて、ずるずる坂を下るがままに任せる事になってしまったのである。老子ではないが、(我レ独リ無為ニシテ、社会ニ養ワレンコトヲ希イ願ウ)気分が陰鬱も極まり、他人と向き合っても不快にさせるだけになってしまった。もう二年ほども仕事をしていないのだ、いまさら元の仕事には戻れまい、そして私は空想の世界に生きる事にした。
 数千年来世界のあらゆる人間が抱いていた不思議な夢、たとえば空を飛ぶ夢・物言う機械の夢・自動で走る車・ものの像をまる写しにする夢、かつては、その他さまざまな錬金術師のミステリアスな夢だったものが大方現実化しつつある。もっと夢を!陰鬱だったこの私の転機になるかも知れない。人類の歴史が始まって以来、科学の発展こそ人に衝動を与えるものはない。よく人々は、一度絶望したところから本物の希望が沸いて来るなどわかったようなわからぬような慰め?の言葉を投げかけてくれるが、要するに、その希望から科学や文明の発展もある、と言いたいのだろう。
 自分自身すらを動かせない自分が自分の運命だという認識(絶望)から、どんな希望を生み出せるのだろう。現実的な自分がいて、ただこの場所に忠実にたたずんでおく以外に、努力のしようがないことになる。、それこそが他に対する誠実さの努力の表現になるのだ。
「サンセバスチャン」の像に象徴される不屈の精神、不幸にして出遭ってしまった時代と狂信によって圧迫されても思考上の真実を曲げなかった「火刑上の誠実」それらに対する価値を私は今一度、静かに確信しようとしているのである。
                          (了)

2018/12/01(土) クリスマス
ツリー


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