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2019/01/10(木)
THE DAY
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家路
その日、私は少し眠たかった。 外気がスースー衣服の中に入り込んで来て、せっかく温まっていた懐がすぐに冷たくなってしまい、少し苛立って早足で歩いていた。おまけに今朝食べた食事が腹の底でくすぶっていて、頭はボーっとしていて、日課の朝の散歩タイムはつまらないまま、もう終わりにしようと思い始めていた。 この頃毎日のように思っている事だが、それは夕日の美しさについてだ。沈んでしまうまでの間、タバコを口にくわえたまま、ただ見惚れている。 「ああ、やっと夜になった。」 と確信し、口元を湿らせてから家路を急ぐ。 急ぐ?家路を急ぐ? 私にはたった今見惚れていた事実が、架空の出来事のように思えてしまう。 私は、家路を急ぐのならば何らかの理由が欲しいのである。愛する人が待っているとか、それに似たものが欲しいのである。 でも結局、何かの思いが固まれば、誰も、何も待っていなくても、家路を急ぐ事になってしまうのだが。 街中を、人波に逆らって一直線に通り過ぎるなんて、チョッと見た目にはカッコイイかも知れないが、なんだかトマホークみたいで気持ち悪い。 冬の鈍い陽だまりの中では不可能な程の光を一点に集中させて、強い力に変換するような、光の束に包まれて夜を迎え、色彩は目には見えないまま、その束をただ反射して返してしまうっていうか、何も手を加えずにカオスのままに送り返してやった。今度同じ現象に立ち合ったら、もうちょっと明るさの残っているうちに行なって、色を楽しみたいと思う。 しかし、これからはますます寒くなって行くし、週末は五十年代のピアノ・トリオを聴く時間にあてたいから三週間程、休憩だ。 近頃では珍しくなった,街角にあるボックスに入り込み、相手のいない電話を掛けてみた。 そして電話ボックスを出た後、私は何故か家路を急いでいた。 (了)
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