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最新の絵日記ダイジェスト
2020/11/18 都合により閉鎖します
2020/11/12 月極駐車場
2020/11/11
2020/11/10 飾り
2020/11/09 玄関先

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2019/01/31(木) くまじ・着物大好き
      あの丘 2

 すると、その家から金さんの家のお母さんらしい人が出て来ました。そして何かご用ですかと、優しく聞いてくれました。男の子は、「僕は、うちの後の丘の上から見える、このお家の光っている窓がどんなもので出来ているのかを見に来たのです。でも、窓は普通で、ただガラスがはまっているだけですね。」と言いました。おばさんは、首を振って、「私の家は貧乏な百姓ですもの。装飾などが窓についている筈はありません。何よりもガラスの方が明るくていいんですよ。」こう言って笑いながら、男の子を戸口の石段に腰をかけさせて、牛乳をコップ一杯と、パンを一個持って来てくれました。おばさんは、それから、家の中にいる、男の子とちょうどおない年ぐらいの金さんの娘らしい女の子を呼び出しました。そして、二人でお遊びなさいと言って、ニッコリうなずいて見せて、再び家へ入って仕事を始めました。その小さな女の子も、自分と同じように裸足のままで、黒っ茶けた木綿の上着を着ていました。しかし、その髪の毛は、丁度、男の子がいつも見ている光った窓のように、きれいな金色をしていました。それから目は、真昼の空のように真っ青に澄んでいました。
 女の子は、にこにこしながら男の子を誘って、手を取って家の裏に連れて行き、つないでいる牛を見せてくれました。それは、額に白い星のある、黒っぽい小牛でした。男の子は自分の家の、白い、栗の皮のような色の牛のことを話しました。女の子は、そこいらになっている果物を一つもいで来て、二人で分けて食べました。二人はすっかり仲良しになりました。 男の子は、きれいに光るこの家の窓の事を女の子に話しました。女の子は、「ええ、私も毎日見ているわ。でも、それは、あっちの方にあるのよ。あなたはあべこべの方へ来たんだわ。」と指差して言いました。「いらっしゃい。こっちへ来ると見えますよ。」と、女の子は家のそばの、少し高い所へ男の子を連れて行きました。そして、家の光る窓は見える時が決まっているのだと言いました。男の子は、ああ決まっている、お日さまが入る時に見えるのだと答えました。 二人は小高い丘へ上りました。女の子は、「ああ、今ちょうど見えているわ。ほら、ごらんなさい。」と言いながら、向うの丘の方を指差しました。「ああ、あんな所にもある。」と男の子はびっくりして見入りました。しかし、よく見ると、それは丘の中腹にある、自分の家でした。男の子はびっくりして、僕はもう家へ帰ると言い出しました。そして、もう一年も大切に腰に下げた袋にしまっていた、赤い筋が一すじ入った、白い、きれいな小さな石を、女の子にあげる事にしました。それから、ビロードのようなつやのある、赤いのと、ぽちぽちのついたのと、牛乳のような白い色をしたのと、三つあげました。そして、また今度来るからといって、大急ぎで走って帰りました。女の子は、男の子が慌てて駆けて帰るのを、びっくりして見送っていました。キラキラした夕日の中に、いつまでも立って見送っていました。
 男の子は、息も休めないで、どんどん走って帰りました。しかし道がずいぶん遠いので家へ着いた時には、もうすっかり辺りは暗くなっていました。
自分の家の窓からは、ランプのあかりと、囲炉裏の焚き火とが、黄色くも赤くも見えていました。丁度、さっき丘の上から見た時と同じように、きれいに輝いていました。男の子は、戸を開けて家に入りました。お母さんは立って来て、頬ずりをして迎えました。小さな妹も、よちよちよろけながら来ました。
 お父さんは囲炉裏のそばに座ったまま、ニコニコしていました。お母さんは、「どこまで行って来たの? 面白かった?」と聞きました。「うん、ずいぶん愉快でしたよ。」と男の子は、嬉しそうに言いました。「何かいい事を覚えて来たかい?」とお父さんが聞きました。「僕は、今日、自分たちのこの家にも、どの家にもキラキラしたきれいな窓が付いているという事を習って来ました。」と、男の子は答えました。
                       (了)

2019/01/30(水) のぼり・水素風呂
    あの丘 1
 昭和初めのある日のある村
 丘の中腹に、古くから代々続いている農家がありました。古くからあるというだけで、家は貧しくて、手伝いを雇う余裕もないので、まだ10才にしかならない小さな男の子が、両親と一緒に農作業をしていました。男の子は、学校から帰ると、毎日のように田畑へ出たり、穀物小屋の中で仕事をしたりして、一日中休みなく働きました。そして、夕方になるとやっと一時間だけ、自由に遊ぶ時間をもらっていました。 
その時には、男の子は、いつも決まって、もう一つ後ろにある小高い丘を目指して出かけて行きました。その丘へ上ると、何百メートルか向うの丘の上に、金さんの家の窓がわずかに見えました。男の子は、毎日、そのきれいな窓を見に行きました。
窓はいつも、きらきらと眩しいほど光っています。そのうちに家の人が雨戸を閉めると見えて、急に、いきなり光が消えてなくなります。そしてもう、他の家と違わなくなってしまいます。男の子は、日暮れになったから金さん家も雨戸を閉めるのだなと思って、それを潮時に自分も家へ帰って、ごはんと少しのおかずを食べて寝るのでした。
 ある日お父さんは、男の子を呼んで、「おまえはほんとによく働いてくれているから、そのごほうびに、今日は一日休みをあげるから、どこへでも行って遊んでおいで。ただ、このお休みは、神様が下さったのだという事を忘れてはいけないよ。のらくらとして無駄にしてしまわないで、何かいい事をして来なければ駄目だよ。」と言いました。 
男の子は喜びました。それでは、今日こそは、あの金さんの家へ行ってきれいな窓を確かめて見ようと思って、お母さんから、おにぎりを二つ作ってもらって、それをふところに押しこんで出かけて行きました。
男の子には楽しい遠足になりました。裸足のまま歩いていくと、往来の白い埃の上に足跡がつきました。後ろを振りかえって見ると、自分の小さな足跡が長く続いています。足跡は、何処までも自分について来るように見えました。それから、自分の影法師も、自分の行動する通りに、一緒に踊り上ったり、走ったりして、ついて来ました。
男の子にはそれがまるで、子分を従えているみたいで、愉快でたまりませんでした。 そのうちに、だんだんにおなかがすいて来ました。
 男の子は道端の生垣の前を流れている小川のフチに座って、お母さんに作ってもらったおにぎりを食べました。そして、透き通ったきれいな水を掌ですくって飲みました。それから、食べ残ったごはんの粒は、辺りへ振り撒いておきました。そうしておけば、小鳥が来て食べます。これはいつか、お母さんから教わったことでした。 
男の子は再びどんどん歩き出しました。そして、漸く、小高い、まっ青な、いつも遠くから見ている丘の下へ着きました。男の子はその丘を一目散で上って行くと、例の金さんの家がありました。しかしそばへ来て見ると、その金さんの家の窓はただのガラス窓で、特別な装飾などはどこにもされていませんでした。男の子はすっかり当てがはずれたので、泣き出したいくらいにガッカリしてしまいました。
               (続)

2019/01/29(火) ヤマダ電機裏・有料駐車場
川柳もどき  16

夜も更けて 酒に負けつつ なに祈る

レコードに懐しささえ 忘却す

スクラムを 組んで戦い 鬼の形(ぎょう) 

堕落して 酒飲みまみれの 夜の内

悠々と 死と親しむなり 末期まで

弁証法 片手間覚えた 頭にて

引きずりつ 足を邪魔なる 人生に

2019/01/28(月) 豆まきイベント
川柳もどき  15 

花一輪 愛でる気持ちで 少女見る

夜も更けて 己のつらが 気にいらぬ

愚かなる 自分を信じる 道しかなし

今の今 いつわりの日々 途上にて

信じざる 己の姿 ただ今の

淡雪に 願いをしつつも 溶けてゆき

生きている 真似してるかの 現の世

2019/01/27(日) バル・イタリアン
DON NAPOLI

2019/01/26(土) ベルソー
      なるように

 世の中に生を受けて、あれこれ忙しく働いて、人の言いなりになって利用されて、その結果がほんの少しの出世と給料、食べて、飲んで、くたびれ果てて寝て、その挙句病気になり、棄てられて死んで行く、そんな一生を送るのだろう。死ななければ、それはまだ続き、生きて行くにはそれはそれで、まだ他にやらなければならない事がたくさんある。何とか生きて行くにしても、所詮はあの世に向かって死に行くのは目に見えていて、あの世に向かっている時間稼ぎをしているというわけだ。
生きんがために何かをするわけだが、その事自体が死に向かっての一本道を歩き続ける旅だという事を忘れてはならない。
この世があり、あの世というものがあり、産まれて、死んで行く、ただそれだけの只中にいるという事だ。
 人間生きている限り、それぞ各人が色々な事を覚え、身につけ、要領良く動いて行く事で支配したり作用し合ったりして、お互い生きて行く、何かを身につける事によって、欲が頭をもたげたり、貧困に侵されるといった事にも出合う。これら煩悩に悩まされつつ余分な物を身体にまとい、ブクブクと肥え太って、生きたがる性根が増えて行く。
 欲にまみれるとはどんなものだろうか。本物の知識を身につけようとする状態、または本物の知識を身につけた人の言動を理解し、受容し自分のものにして行く事だろう。
本物の知識とは、死ぬまでかかってもおいそれとは解らない大問題であり、これを解かんとするために毎日毎日、朝から夜眠る時まで考えて行く。それは、一日一日死に近付いて行く事に他ならない。
 ある人は音楽家になり、ある人は芸術家になり、またある人は政治家になり経営専門家になり、ある人は何々家になる。何々家はその立場と名誉を守るために意見や言動を吐き、他の人を時には非難し、自己の優位を誇示するのに奔走する。自己の立場の優位性を誇示し、他を貶めるために自己の論を利用し、飽くまでも自己の評価の本質から外れていると主張する。
 人は会やグループや、派閥を作りたがる。会やグループや派閥に寄りかからないと生きて行けない人まである。逆にそんな物に寄りかからずに生きて行ける人もある。人はさまざまであり、各人一人一人が自分の生活の中で、おのおののやり方で自分独自の精神世界を豊かな物に築いて行けるかだ。
自分独自の精神世界を豊かにするとは、どういう事だろうか、それは死に向かっている途上の、心の支度をして行くという事とでも言えるだろうか、と良くその意味を噛みしめる事もなく言い放ちつつ、解らない、解らないと私は念仏の様に呟き、考えている。
 まず偉くなりたがる、金をたくさん欲しがる、威張りたがる、出しゃばりたがる、人を奴隷のごとく使いたがる、人それぞれが何々したがるように出来ている。
 あの世から迎えに来るまでは、この世の仕組みから外れる事は中々無理っぽいので、理屈なしに、何となく自由っぽく生きるのが重要だと私は思う。
                          (了)

2019/01/25(金) カラオケ ベスト10
川柳もどき  14


悠々と 死と親しむなり 末期まで

信じざる 自分の姿よ ただ今の

山ほどの 反古と引きかえ 頭冴え

河原にて 命みつかる 気配する

焼き芋屋 こんな時間に 寒かろに

冬の夜に 急いて欲する 石焼き芋

生きている 真似をしている 現の世

2019/01/24(木) 肩こり・腰痛
エメロード整体院

2019/01/23(水) 郵便ポスト
       ハロー

 時計の針が進んで行く。それに呼応するかの様に雨脚が強まっていく夜。
部屋の中にいて、何だかわからない不安の種に火が着いてしまった体が、冷気を吸い込んで永遠とほんの一瞬の隙間をさまよっている時間を、やり過ごしていた。
 そんな時、大粒の雨を両手の掌に乗せた彼女が現れた。ちょっと苦味が混じった声が、その口もとから歪んで発したかすかな声で、確かに彼女は、ハロー、と言った。
目を伏せたまま雨靴を脱ぎ、僕の傍らに来て濡れた体と髪の毛を暖めた。白っぽい素足が電気のコンセントの近くで寒さに震えながら、何かを待っている風だ。
まるで赤の他人の様に僕は、お元気ですかと言い、その反応を楽しむ。
 彼女はそれへの反応はそこそこに、今日あった事を話し始めるのだった。聞いてくれる相手は僕ではなくても、誰でもかまわない、という口調で。
 さっき、雨が一時間くらい止んでた時あったでしょう。その時あたし、外に出てみた。そしたら、不思議な女のコがいたの。坂の途中で、ふっと前を見ると、あたしにそっくりな女のコがいたの。息を切らせていてもうこらえ切れないって風でしゃがみ込んだ。その懐には木の実みたいなのをたくさん、持ちきれないほど抱え込んでいたの。あたしはじーっとそのコを見ていたら、そのうちに自分がスーと消えて行くのが分かったの。
 気がつくとあたしとそのコが一緒に並んで歩いていた。そのコ、レストランで働いてて今日の遅番、ズル休みしようと思って、店に電話したんだけど、誰も出ないんだって。何十回かけても出ないんだって。まるで店の方が先にズル休みしちゃったみたいにね。 
それが口惜しくて坂ン所まで全速力で走って来たら、坂の途中で息切れしたんだって。
 そのコの側にいると、回りのも物が、スーとなにもかもが消えて行くみたいなの。風も音も、振動も、とても自然で、その中に吸い込まれて行ってしまうみたい。
 その坂は、いつまで経っても坂なの、地面が平らにならないの。
そこに、下の方からパタパタ軽やかな音がして、郵便屋さんの赤いバイクが現れた。
あたし、タクシーを止める様に手を高く上げて振ったら、バイクは小さく頭を下げて止まったわ。
あたしは」「すいません、坂の上まででいいから、後ろに乗せて行って下さい。これからは、いっぱいいっぱい、レターを書きますから。」って言ったら、その人、何て言ったと思う?
「私宛に書いてくれるんですか?」
だって。思わずクスッと笑ったら、その空気が彼にも伝わったのね。
耳までまっ赤にして、彼はこう言ったわ。
「人の話をストレートに信じるのってダメですか?」
その人、ちょっとズレてんのね、でも、とても好感が持てたわ。
                         (了)

2019/01/22(火) リラクゼーション・ボディサロン
        これから


 男というものは、いざという時の覚悟は決めておかねばならない。売られた喧嘩は買わねばならない。勝つ為の練習を日々怠らないようにする。
といった論法で自衛力の増強を叫び喧伝する某自民党の輩がいて、それを担ぐ戦争商人が昔からいる。輩は喧嘩の練習をする専門家を飼っていて、それを育成し続けるためには食いぶちを用意してやらなければならない。現在、辺野古に出張している自衛隊員などもこれに含まれるのだろう。何かと重宝で使い勝手のいい連中であるから、これらをなくしてしまうわけにはいかない。食いぶちを失った連中の面倒をみてやらなければ、路頭に迷い、生活の基盤がなくなる事になってしまうから。
失業者は増え、職業安定所はその失業者の職を探しをしなければならなくなり、関連組織にも影響が出て来る。
使用済みの武器を始末しなければならないが、相当な時間と苦労が伴うだろう。平和日本の裏でそんな事を大っぴらにする事は出来ない。財政の何割かをさいて喧嘩の武器を集めたり、処分したりするのも、国民の為と言えば無意味でもなく、ご一興といったところか。
 文明社会の中での歪みが表面化しつつある現在、自国国家愛好家が各国で台頭しつつあり、それが一つの恐怖となり増大して、ついには恐怖に耐えきれなくなって、たとえばミサイルや核兵器が使用されるといった、最悪の事態も起こりかねない。
 核兵器が我々の世界を壊滅させうる、それだけのものを我々自身の手で発明・開発してしまった、この過信と他の生命体への優越感を持っている事、ここに一つの終末的思い上りを強く感じる。人類の底知れぬ、尽きない欲望がとぐろを巻いている。そこにはいつでも、わが身を陥れる妄執が背中合わせであると忘れてはならないだろう。
 もう一度、自然の中へ帰って自然の織りなす動きと共生し、人々がその中で心の絆を強め、共に世界中の自然や人情を信じて真の幸福を求めて行く、そういう社会を何としても作り直あなければならない時期に来ているのではないだろうか。
                          (了)

2019/01/21(月) ブランチ2 エレベーター
    河の底 3


そんな月並みな慰めに近い言葉を使い、優しさを滲ませた。
部屋にある10のベッドは全て使用されており、それぞれの療養患者にはいろいろな見舞い者が付いていて、静かながらも人々で賑わってはいる。その中での三人は会話がはずむ事もなく、これから先の苦労や、息のつまりそうな将来像をそれぞれが心の中で案じつつ別れ、部屋を後にした。
 それから1ヶ月ほどして、南から徐々に北上して来る梅雨も真近の、じめじめした気候の中、「甲州や」に順子の補充の女が雇われたのを機に、小山はパッとしない姿ではあるが、しばらくの間、物珍しさもあって通いつめた。よう子と言う新しく雇われた女は年齢は29才だと本人の口から聞いたが、小山の好みの容姿なのもあって、話もわりあい寡黙な部類に入る小山とは何となく合い、ついつい通ってしまうのだった。よう子は目が大きくパッチリし、顔形は下ぶくれした、所謂おかめ形だが,頬がプックリとしているのがかえって愛らしさを男に感じさせるものがあり、性格も明るく活発に良く動く女で、小山だけでなく、他の馴染み客もよう子に魅力を感じ、足しげく通う様になり、「甲州や」も最近になく繁盛しているのだった。
 さすがに小山は通いつめたためか、懐具合も寂しくなって来たため、今日は「甲州や」行きも止そうかと思っていたある朝、昨夜遅くから小雨がシトシトとしつこく降り続いていた日、「甲州や」の女主人からの電話が鳴った。
「順子ちゃんの容態が急変して、危篤状態なんだって施設から連絡があったけど、小山さんどう?立ち会ってあげる?」
「ああ、まるっきり無縁でもないし、行ってあげようか。」
そう答えると、地味な服装を選び着替えて、療養施設へと向かった。
 施設の古びた木造の大きな門の前で女主人と待ち合わせて、二人きりで落ち会うと、受付で順子の現時点の状態を看護師からおおむね聞き、納得してから別室へ通された。
 その部屋は遺体安置室かと見間違うほど、薄暗く殺風景な部屋であった。北側を枕にして、静かに眠ったままの順子は意識もなくなっていて、心臓だけが微かに動いているのが、体につながれている心電図で確認される状態だった。あと何時間命が保てるか、そう永くはあるまいと思うと、近親者も身寄りの者もなく立ち会って貰えず、赤の他人のこの二人だけに最期を看取られ死んでゆく、細々となって、みすぼらしくなってしまった、まだ30代半ばの順子が哀れに思えてならない。
 まるで、短い一生を自分の意志とは別に、ただ流され流されして、ついには病魔に倒れ滅んでゆく、T市の郊外を南北に分断して流れているK河を上流から流れ流れしてその身を任せ、辿り着いた所は岸ではなく、澱んだ底に溜まってゆくばかりの芥のひとつに過ぎない様な生涯だったと考えられて仕方がない。
 小山と、ここに一緒にいる50代にはなっているであろう、女主人とて他人事ではないからこそ、こうして薄倖だったひとりの女の最期に立会い、同じくする境遇を分かち合う気になったのだと思う。
                          (了)

2019/01/20(日) 美容室
My jStyle

2019/01/19(土) ファンクショナルマッサージ治療院
       河の底 2

 もしかして、ねんごろの関係になっているわけでもないこの女に、幾らかでも金の無心をされるかも知れないなと、ここへの見舞いの途中、歩きながらそんな心配もしていたからだ。
 順子とは、「甲州や」で安い酒を飲みながら、カウンターを挟んでの世間話で聞いた限りでは、既に両親はなく、連絡を取り合っている身寄りも友人もいないと言っていた。その順子が、これから入院し、身の回りの世話をしてくれる人もなく、たとえ当座の金銭面での心配はなくとも、心細い生活になるのは想像に難くない。
「お暇な時は、あなた見舞いに来てよ。」
順子がそう言うので、小山も言った。
「ああ、きっと行くよ。生卵でも持って、果物も持ってさ。」
と返答たが、実は懐の中は寂しく、そんな余裕があるかどうかも心細い毎日を送っているのだ。
彼女は、小山の表情に一瞬の陰を感じたのか、黙り込んでしまった。
「まあ、これを機会にゆっくり養生して、それから次の身の振り方を考えるんだね、いつまでも縄のれんのお酌じゃ、たかが知れているだろうし。」
先々の事は、当人も先が思いやられるのは実感として持っているらしかった。
「あなた、そうなったら、相談に乗ってくれる?」
「ああ、その時はその時、良い話を持っていたら、なんでも話に乗ってあげるさ。」  
 丁度去年の今頃だったろう、店の常連客と店員達7・8人で連れだって、小田原城の桜見物に行った話なども懐かしそうに語り出したところで、小山も相槌を打ちつつ、そろそろ、と言って腰を上げて帰りの挨拶をして外へ出て行った。
翌月の初旬、いい気候で朝から珍しくカラッとした日、安っぽいアーミー調のズボンを履き、素足に底の減ったデッキ・シューズといった格好で、小山は、もの欲しそうな目つきで民家が続く軒先を見やりながら、「甲州や」を目指して歩いていた。昨夜飲みに行った時の話で、女店主から、順子が3日前にやっと通知が来て、入院出来たとの事だった。
入院したばかりで心細くもあるだろうし、今日、早速見舞いに行ってやろう、と女店主と意気統合したのだ。果物と、身の回のタオルやらの生活用品を差し入れようと途中で買い、
励ましてあげよう、と女店主と昨夜しみじみ話しをして来たのだ。
 バスを乗り継ぎ乗り継ぎして、療養施設にやっと着き、一部屋順子が入っている部屋を受付で聞き、部屋に着くと、一部屋に10床ほどあるベッドの一つに、彼女は半身起こして窓の外をぼんやりと眺めていた。小山と女店主の姿を見つけて、急に笑顔になり
「遠いのにわざわざどうも、すみません。」
と言った。女店主は
「どうお、住み心地は。」
「ええ、お陰さまで、少し淋しいけど。」
女同士でしばらくそんなやり取りが続いた後、小山が漸く口を開いた。
「周りに何もないからちょっと淋しいけど、静かだし、養生にはいい所だね。」
                           (続)

2019/01/18(金) 麗寿会送迎車
           河の底 1

 ある四月中旬の雨が続き漸く止んだ日の晩になって、二週間振りにもなろうか、小山はこの町で唯一の飲食街の中にある「甲州や」と言うちっぽけな飲み屋へ足を運ぼうと気紛れに思い立ち、行って見ると、ちょっとした事を女店主から耳にした。
 お酌に雇われている馴染みの女、順子が病院の身体検査を受けた際、レントゲン写真に影が二箇所映っているとの事で、医者から入院を薦められた。しかしその金の工面がつかないので、古びて安い一間きりのアパートで、仕事を休みしばらくの間は、静養にあてる事になったのだと聞かされた。
 小山は、店から5・6分とかからない、埃っぽい小間物を店先に吊るし、ガラス・ケースを並べたままで商売気のない雑貨屋の隣にある古アパートにいる順子の見舞いに行ってみる事にした。
 順子の部屋をそっと少しだけ扉を開けて覗いてみると、薄っぺらい布団の上で半身を起こし、ドテラを羽織った順子の顔を確認すると、小山は漸く挨拶をして部屋に上がり込んだ。お白粉気もなく澱んだ青白い横顔は、店に出ていた時とはかなり様子が違っていて、いかにも病人といった雰囲気が部屋全体に漂っている。ふたりの会話も弾む事もなく、気軽な調子で話しかけるのもはばかられる。
順子はいったん立ち上がり、部屋の隅に無造作に置かれていた座布団を持って来て、小山にすすめた。 
 彼女は店を休む直前から今回、こうなってしまい、布団の上で毎日寝起きをする毎日になった事の次第を、あらまし小山に話した。こうして、静養出来るようになるには、「甲州や」の女主人の理解あっての事で、大変ありがたく、良かったと思っている、とも付け加えた。
小山はずっと黙って聞いていたが、漸く口を開くと
「ずっと店に出て客相手のお酌をしていたら、取り返しのつかかない体になっていたかも知れないね。」とさも同情を込めて言った。
彼女も「夕方の店を開ける前に、Aさん(女店主)が食べる物を運んで来てくれるから心配ないし、お医者さんがずっと寝ていなといけないと言うから、一日寝たっきりでいるから、背中が痛くなるのが困るくらいね。」
と当座困っている事を告げたが、金目の事は言わなかった。と言って小山に金策の話をされても、こっちもその日暮らしの風癲に毛が生えたような生活を送っている身、少々の見舞金は出せても、それ以上頼られたとて手も足も、逆さにしても何も出て来はしない。食堂や縄のれんの店で腹を満たすしかない独り者の割には栄養にちょっとうるさく気を配っている小山は、病気には根菜類などや、スジの入った野菜がいいなどと、生かじりの知恵を順子に授けるのだった。
 T市にある市立の療養施設の空きを待っている状態の今は、許可の通知が来れば、すぐに入所するつもりで、身の回りの準備もあらかた整えてあるので、当面生活費は貯金を食いつぶして凌いでいる、とも言ったので小山はホッとした。
何でも、その市立療養所は、T市民であれば保証人を明確に立て、手続きさえ通れば、無料で入所出来るそうで、保証人は「甲州や」の女主人になって貰い、入所保証金などの前払いの必要はなく、後から、かかった実費を支払う方式なのだそうだ。ただT市でもかなりの山の中で、外出や、見舞い客が尋ねて行くにはかなり不便な所にある様だった。
                           (続)

2019/01/17(木) ふじ
川柳もどき  13


冬の夜 寒さしのぎに もの思い

山の辺で 救い待つよな 気持ちかな

暖かい 火灯し部屋で なに思う

小弁咲く 花園の前 唄をよむ

木々細く 眺めいる人 誰あろう

死ねよとて 鳴り響くなり 風の音

草木燃ゆ 今だ来ぬ人 山のふち

2019/01/16(水) リラクゼーション
おおなみ整体院

2019/01/15(火) With me
  リズム 2


 僕の目には、そんな運転している彼女の姿がジャン・リュック・ゴダールの映画に出て来る、存在感のあるジャンヌ・モローの様な女性に見えて頼もしい。少しまじめな表情、目は少し遠くを見、キリリとしていて、クールである。
突然彼女は
「眠っちゃだめ、にいはお」
と言って、目を細めて横顔を見つめられていたのを感じたのか、そう言って僕の口に金平糖を一粒放り込んだ。そしてその金平糖が口の中で溶け、形がなくなった頃、パブリカは海岸に到着して、僕達は少しガッカリした。
晩秋の海岸には誰もいないだろうと予想していたのだが、人で一杯だ。どこかの幼稚園か子ども会の遠足か何かで、あちこちに靴やリュック・サックが一杯転がっていて、引率の保母さんや母親がそれらを見守っている。子供達はめいめい、好き勝手に飛んだり跳ねたり、走り回っていて収拾もつかない状況だ。広い砂浜で精一杯楽しんで行動している子供達を見て、最初に感じた落胆と不快な思いは消し飛んでいったけど、でもつまらない。若いカップルもちらほらいて、それぞれ二人だけの世界をを作りあげている。
 僕達は仕方なく、それらの人々と距離を置いた、太く安定感のある流木を見つけ、そこに漸く腰を落ち着けて、サンドイッチの包みを広げた。サンドイッチにはハムや、レタスなんかの野菜がふんだんに使われていて、ボリュームがあるもので、彼女が朝早く起きて作ったであろうと想像出来る代物だ。
 遠くで、子供達の歓声や注意を与える引率の人の声が入り混じって、空間をさまよい、ひらがなで作る山が築かれて行く。
 彼女はそんな砂浜の様子を気にとめる事もなく、本を読む。
「バックミンスター・フラーの宇宙船地球号」
  僕はその間、手持ち無沙汰なので、まるで子供のように砂山を一人で築き始めた。
波が来ても流されない、風が吹いても崩れない、砂とは思えない山。もちろん中央にはトンネルもある。
彼女が読書していた小一時間、山は一応完成したのだが、達成感を感じる事もなく、けだるさだけが残った。
読書中の彼女はほとんど動かず、赤いコカ・コーラの自動販売機に見えたりした。
 浜辺の子供達は相変わらず、騒いでて楽しそうだ。
突然のにわか雨がやって来たので、急いでパラソルの準備をしている。整列し開いた大きめのパラソルに5・6人ずつが入り、出席を取る。カップル達は走って、雨やどり出来そうな小さな売店などを目がけて右往左往している。
僕達は用心のためにと、傘を1本持って来ていたのでそれをを開き、二人で肩を並べて入った。そして傘に隠れた二人は、どちらからともなくお互いの掌を重ね、どちらからともなく抱き合ったのだった。
 雨よ、ありがとうさん、といったところ。
                           (了)

2019/01/14(月) フェリース
        リズム 1


 深夜ワインの瓶を眺めながら、アート・ペッパーの女々しいアルト・サックスの響きと、バックで弾いているピアノがとてもいいクッションとなって、僕はそのサウンドの上に長々と横になり、次はコール・ポーターの名曲「恋とは何でしょう」を聴く準備を始めていた。
何でしょう、何でしょう。
空っぽの頭の中を言葉が駆け巡り、意識と無意識の間から直感でもつかめたら最高なのになーと、胸元でニャーニャー言っている飼い猫に尋ねてみたら、大きなあくびをひとつして、玄関の方に消えてしまった。
本当の事を言うと、僕だって真剣に「恋とは何でしょう」などと考えていうわけではなくて、ボンヤリと遊んでいるみたいなもんで、ただ口ずさんでみただけです。それだけです。
 明日は、彼女とドライブする約束があるのです。広い草原まで行って、雲が流れて行 くのを眺めながら、食事をして、素足になって風に、吹くままに当てる。
そんな風な明日の事を考えていたら腹が減って来たので、寝る前に目玉焼きを1コこしらえて食べた。
   片目のジャック
 翌朝、僕は竹が二つに裂けるようなよじれるような、きつい大きな音で飛び起きた。
彼女が勝手に僕の部屋に侵入していて、僕が粗大ゴミの中から拾ってきた、つぶれたアルト。サックスを思いっきり吹いたからだ。
僕が彼女を少し目を細めながら睨むフリをしたら、彼女はジャムでも舐めるように舌を出し、反省の態度を見せた。
 僕は彼女とのはっきりとしていない境界線を保ちながら着替えて、それから歯を磨いた。そして足元に猫がニイハオと鳴いて餌をねだって来たので猫缶を開けてやり、夕べの残りのゆで卵も添えてやりました。そして留守をお願いして、彼女が用意して来た真っ赤なパブリカに乗り込み、一路目指すは海だ。
GO!
 町にはスモッグと排気ガスが覆い、アスファルトにはヒビが入って大きな車と小さな車であふれいてる。おまけに信号が多くて何回も引っかかる。その度に点滅する歩行者用信号と、横断歩道を早足で歩く人々のリズムと、隣車線で、青信号に変わったらすぐ発進するぞと意気込む運転手、そして僕たちの心臓の鼓動のリズムとが幾重にも交錯して、頭が少しクラクラしてしまった。車は、思い切り空き缶を蹴り飛ばしたのに、思ったほどは遠くへ飛んでくれない様に、なかなか進んでくれません。
 都会は嫌だ。たまに遊びにくればそれでいい。住む所ではない、住むなら田舎だ、と改めて思った次第だ。
 彼女は、タバコに火を点けたり、あくびをしたりと、神経や身体をほぐしながら運転している。しばらく進むと、急に風が優しくなって来て、窓から僕達の髪を揺らしながら小石だらけの道に入って行き、車は小刻みに振動して体の芯に入って来た。僕はその振動が気持ち良く、目をつぶっておとなしくしていると、隣で彼女はハンドルを握りながら、小さい声でSOS・SOS、と呟いていた。
                           (続)

2019/01/13(日) シール
一俊丸

2019/01/12(土) 美容室
コワフェルド・エクセル

2019/01/11(金) SUIT SELECT
       この世


 現代の政治や経済にうといくせに、それらについて口をはさみ批判するのは間違いだろうか。私は今の総理大臣が誰になろうが経団連会長が誰であろうと、何の変わりもないと思う。政治・経済の事についてど素人の私のような男には理解出来ない事が多いのだが、どういう状況になれば今の政治・経済がもっと良い方向に向かうのか、トップの首をすげ替えるだけで日本が良くなるものなのか私には一向に解らない。
誰が得をして、誰が損をこうむるのかは、どうでもいい事のように思えるのだが、当事者にとっては一大事だろう。
 私のようにただ、日々何事もなしに寝起きを繰り返し送っているだけの者には理解出来ない社会の仕組みがあり、風見鶏のように一瞬たりとも止まらない、変わり続けることで支えられている現代、一時の損得のツケは、貧しい人間の方へ回されてくる事だけは間違いなさそうではある。 
 国会議員、都議会議員、市会議員やその取巻き連中は、売名や拝金の亡者、立身出世、学歴盲信者どもであり、頼みもしないのにありがたく甘い話で一般大衆にへつらう。もうけ話、おこぼれはいらんかとばかりに大声でお題目を並べる。お題目に気を取られていわばオマケを手にして喜んでいるようでは、人間がいつまでたっても大きくはならない。
 慇懃無礼な押し付けが世の中には多い。皆の生活を圧迫しがんじがらめにされ、この世とオサラバする事もままならずそんな勇気も持ち合わせていない。毎日が新規まき直しのつもりで生き続けている現実。我々自身が作り上げ続けている、政治・経済・宗教も思想も主義も、それによって生じる地位その他諸々は結局の所計算づくの金を中心にして蠢いているのが現実社会だ。いつの間にか、金権腐敗政治を無くそうなどと言っていたのも過去の事になってしまい、社会革命だろうが人間革命だろうが,人間全体・世界中がハッと気がつき目をさますような事態が起こらない事には、本質的な変革を望むのは無理な話であると思う。
    (了)

2019/01/10(木) THE DAY
      家路

 その日、私は少し眠たかった。
外気がスースー衣服の中に入り込んで来て、せっかく温まっていた懐がすぐに冷たくなってしまい、少し苛立って早足で歩いていた。おまけに今朝食べた食事が腹の底でくすぶっていて、頭はボーっとしていて、日課の朝の散歩タイムはつまらないまま、もう終わりにしようと思い始めていた。
 この頃毎日のように思っている事だが、それは夕日の美しさについてだ。沈んでしまうまでの間、タバコを口にくわえたまま、ただ見惚れている。
「ああ、やっと夜になった。」
と確信し、口元を湿らせてから家路を急ぐ。
  急ぐ?家路を急ぐ?
 私にはたった今見惚れていた事実が、架空の出来事のように思えてしまう。              
私は、家路を急ぐのならば何らかの理由が欲しいのである。愛する人が待っているとか、それに似たものが欲しいのである。
でも結局、何かの思いが固まれば、誰も、何も待っていなくても、家路を急ぐ事になってしまうのだが。
街中を、人波に逆らって一直線に通り過ぎるなんて、チョッと見た目にはカッコイイかも知れないが、なんだかトマホークみたいで気持ち悪い。
 冬の鈍い陽だまりの中では不可能な程の光を一点に集中させて、強い力に変換するような、光の束に包まれて夜を迎え、色彩は目には見えないまま、その束をただ反射して返してしまうっていうか、何も手を加えずにカオスのままに送り返してやった。今度同じ現象に立ち合ったら、もうちょっと明るさの残っているうちに行なって、色を楽しみたいと思う。
しかし、これからはますます寒くなって行くし、週末は五十年代のピアノ・トリオを聴く時間にあてたいから三週間程、休憩だ。
 近頃では珍しくなった,街角にあるボックスに入り込み、相手のいない電話を掛けてみた。
 そして電話ボックスを出た後、私は何故か家路を急いでいた。
                         (了)

2019/01/09(水) チケットワン
       幸・不幸

 この世に生を受けてしまったので、生きている。生きている限りは幸福な生活がしたい、良い暮らしがしたいと誰もが願っているだろう。立派な家に住み、家族全員が仲良く、愉快に暮らしたい。山海の珍味が食べたい、綺麗な洋服が着たい、新車の1台も買って遠くへドライブもしてみたい。海外旅行にも行ってみたいし、たまにはギャンブルにうつつを抜かしてみたい。出世もしたいし、毎日が健康に過ごしたい。
幸福になるための条件を挙げていったらきりがない。所謂サラ金やクレジット・カードにしても、それらの欲望を満たすためのいわば前借・ツケである。
 この世の中に生きていて、何をやっても上手く行かず、何事につけてもすぐ行き詰まってしまい、悪い方へ向かってしまい、焦りがつのり思うようにならず、底なし沼にはまって、終いにはにっちもさっちもいかなくなりウツ病に罹ったり、自殺をする事にもなる。
深みにはまって行くばかりで、幸福も不幸も考えられない状態になってしまい捨て鉢になり、責任を運命の神様に任せ、惰性で毎日を送るようになる。
 幸・不幸・禍・福というものも、要するに人一人一人の主観の問題で、例えばやること全てが成功裡に行っている人でも、まだまだ現状に不満で高望みをして欲望に際限がない。
何をするにしても、そういう場合は欲望に制限をかけるという事を肝に銘じておいた方がいい。
 人間の生きている上ではほとんどの場合運・不運で生きていく道が決まっているものだ。
不老不死でいられるものでもなし、人間の一生というものは鍋物が煮える間に見ている夢のようなものだ。幸も不幸も夢のまた夢と言えるだろう。
 生まれてしまった以上、産んでくれた者の手前、面目なく生き様をさらしているのである。
                          (了)

2019/01/08(火)
川柳もどき  12


目覚しを かけて起きても 行く先なし

ただ一人 眠る前には 空虚なり

飲んでまた 酔って暴れは せぬものの

思索する 小部屋ひとつも あれば良し

窓の外 枯葉ばかりが 目立つこと

一少女 姿ばかりが 恋しくて

散ってゆく この命かな 枯葉かな

2019/01/07(月) サイゼリヤ
      感触


 コットンの香りのする部屋の中、甘いジュースで口の中を少し湿らせて外に出、風の中に無数の電波が飛び交っている中を歩き始めた。
ジュースはだんだん体内に沁みて来、私をそっと内側から包んで行く。唾液と一緒に、水たまりの中にジュースを垂らす、誰も見ていない、それは一体いつの事。
 あなたの心の中で、何がもやもやしているの、私がそう尋ねると、あなたはいつだってもやっている、とごく自然に答える。でも、もういいじゃないの。少しずつ息をして、少しずつタバコ吸って、少しずつゴハン食べて、前置きもなしに生きて行ってみては?
 今日部屋ので足をバタつかせて、ダンスのつもりで動いてみた。別に気分が良かったわけじゃなく、実はおしっこに行くのをガマンしてみただけなんだ。
私もそういう事よくするの。尿意を催した時にすぐトイレに行かないで、少しガマンしてみるわけ。しばらくすると、二度目の尿意が来て、座っていられなくなる、3度目は立っていられなくなって来て、ダンスみたいに動く。そのサイクルが短くなって来ると、尿意と尿意のただ中でハイスピードで何かを考えたり、レコード棚を整理し始めたり、ふだんはやらない事をしたりして気を紛らわし、放物線に思いを込めて自然に出来るようになってしまうわ。
 この間の日曜日、街を歩いていてある人とぶつかった。私はその時、トーストにジャムをぬろうか、マーマレードをぬろうかと頭の中で迷っていたら、出会い頭にゴツンと一発ぶつかったんだ。その時、その人の口から、朝食べたキュウリの漬物がポンッと飛び出した。目を丸くした私はキュウリの一片にハッとした。その人の口から出て来たキュウリをどう処理したらいいか、お互い判らない。
久しぶりだね、こんにちは、痛かった、大丈夫、どこ行くの、ごめんなさい、いいお天気ね、びっくりした。
それから何事もなかったかのようにその人と別れた。アスファルトの窪みに収まったキュウリは
「なんだか腹が立つな。」と思ったかどうか。
 草の中で自転車が寝転んでいる。錆びたフレームに触ると、ザラザラしてていい気持ちがする。ふやけ切ったサドルから柔らかい気体が立ちのぼり、座るとひんやりした感触がして落ち着く。
でもその自転車はとても疲れていて、押して歩く私にも疲れが伝わって来る。傍らには壊れたもう1台の自転車が立っている。
急にここにいる事がとてもつまらなく感じて来たので、その自転車を蹴り倒してから一人、草原を微風に吹かれながら歩いている。
私には、風もこの草原もいらない、あのザラザラしたフレームの感触だけで充分だった。
                         (了)

2019/01/06(日) PUPUS
     会話の途中    

 あの日、原っぱのすすきの穂の束がとても綺麗だった。僕と彼女が摘んできた穂が風に揺れ、それを目を細めて見ていた。食べ物の焦げたにおいがどこからか匂って来る。僕たちはすすきの中へしゃがんだまま、自転車を間に挟んででおしゃべりをしている。
  「最近、映画を観なくなったなあ。」
  「だめよ、観に行かなくちゃあ。」
  「本も読まなくなったなあ。」
  「一日2ページでもいいから、何か読むといいわよ。」
  「そういえば、胃はもう大丈夫?時々シクシク痛むって言ってたけど。」
  「胃?ああ、もう大丈夫。年に1回ぐらいそういう事言うのあたし。
   あなたの顔ってサドルみたい。軋んでいて、滑らかで。」
  「君の額だってグリスで汚れてるよ。おまけに耳は変速機の様にピクピク動く。」
  「あたしの耳よーく見てよ、とても形がよくて綺麗でしょ。輝いていて、別の生き物みたいでしょ。」
  「そうかなあ、とても眠そうに見えるけど。大事にね。」
   彼女はGパンについていた土埃を両手で払い落としながら立ち上がり、タバコに火を点けて、くわえタバコのまま、背伸びをしながら、言った。
  「やっぱり自転車、捨てられないね。」
  僕達は、新しい自転車を1台買ったので、古い1台を処分しに来たのです。
  「あたし古いのに乗るから、あなた新車に乗りな。」
  「僕は古いのでいい。君は毎日通勤で駅まで乗るんだし、買い物かもたくさんするし。」
  「2台あって、けんかする事なくなるね。」
  タバコの煙が彼女の黒髪の中へ吸い込まれて行く。
  
  赤いフレームの上に水滴が薄い膜を張り、いくら目をこすったって元の色が見えてこなくて、時々通る車のテール・ライトに照らされ鮮やかに熱くなった。雨が止んだ後も微熱にしばらく苦しんだ。
ブレーキだってそうよ、とても効かないんだもの。最初は怖くて、よっぽど修理に出そうかなんて言ってたけど、慣れてくると平気。ブレーキした時のすーと滑って行く感覚がたまらない。そのズレを楽しむようになっちゃったもの。

 最近ずっと、彼女は古い方の自転車を手放さなくなっている。
冬になってもマフラーを首に巻いて、錆びて軋んだ自転車に乗って、あちらこちらと走り回っている。
                            (了)

2019/01/05(土) K&M
レディスファッション

2019/01/04(金) 魚べい
       未来とは

 その日、学校から帰ったばかりの僕はカバンを投げすてて、またすぐに出かけようとしたら
「どうして出て行くの」そう言う母の声にハッとした。それでも僕はいつもの様にちっちゃな靴を履き直して、台所にいた父さんににらまれながらもう一度「どうして出ていくの」と言われた声に栓を閉めて広い野原に消えていった。
 一歩、二歩、母さんと二人、初めて泣いた夜。二人で無声映画を観に行った。
たくさんある映画館から、安心して眠れそうなテアトルSSを選んだ。反対側のデパートの夜警のおじさん達が映画館の横の狭くて暗い、よく休憩に来る所。タバコの煙でもうもうとしているので普段より余計目をパチパチさせてると、夜警のおじさん達が一斉に懐中電灯を出して、白いスクリーンの様な壁を照らした。
 フラッシュ・アップ
 飛び火した思い。数十人の夜警のおじさん達と僕は笑いながら、泣いた。
懐中電灯のキャッチ・ボール。闇夜を飛び交う光を浴びていつしか眠り始める僕と母。母と僕の間には銀色の月。いつの間にか片目をつぶって鈍く微笑む銀月一つ。
 翌朝、開店間もないデパートに行くと、まずファンタジー売り場は何階かと考える。オレンジ色の地下鉄が大きなため息をもらしたら、指を二本綺麗にそろえ、先頭車両を撃つ。
「もう生きていけない」母を返せ。ガタンゴトン・ガタンゴトン、僕の身体の中で母が叫んだ。
「どうして出てゆくの」「私の子供はどこ!」「私の子供を返して!」
 決して縛りたくない、縛られたくない。あそび心を大切に、父と母と三人でキャッチ・ボール。なるほど、面白い。三人をバラバラにして、もう一度復元すろと、どうなるの。
未完成なまま、ケ・セラ・セラ、ケ・セラ・セラ。今はじっとストックの時。
 僕は心の内でささやいた。「母に内緒で生まれたいな」
それは父母には聞こえなかった。
そしてその時ちょうど良い風が横切った時、三人それぞれ自分の掌を自分自身で優しく包み込み、それぞれの内に向かって呟いた。「今までどうもありがとう。」
それぞれの未来に向かって・・・・・。
                       (了)

2019/01/03(木) 電話ボックス
茅ヶ崎ショッピングセンター

2019/01/02(水) 改装
ヤマダ電機

2019/01/01(火) ポスター
凧揚げ


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