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2019/02/26(火)
酵素風呂看板
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村人達 5
婚礼の人々はそのまま待たされ、彼らにとって永い時間が、沈黙の内に過ぎた。 その間に、地主は庭下駄をつっかけて、門の方へ走って行った。 木の棒を持った若者が、台所から戻って来て、騒ぎが一層緊張した時だった。 「待て、待て!」 「旦那! 荒っぽい衆は誰も来ませんぜ。」 「ふむ。」 「祝言の席はいつまでも地主が戻って来ないので、手持無沙汰ですっかり疲れてしまっていた。 「あの」 当惑している花嫁の母親が行儀よく親戚の一人に話しかけた。 「怪しからん事を考えておる連中が来ないと?」 地主の山田は当てが外れたと、さもくやしそうな顔つきで、宴会を開始する前に挨拶をし、開始の宣言をした。 酒宴は盛大に行われた、アラ、エッサッサァなどと得意になって大声で唄う者あり、この時とばかりに得意な踊りを披露する者あり、果ては下手な手品めいた事をする者までいた。 これは全く、大きな目論見違いだった。地主の山田と、番頭格の竹田が思ったほど、この嫁入り行事は、不満分子と目されていた若い衆が不穏当な発言をしたり、この場所で、酔っ払って俄かに目出たい宴を荒したり、祝言の座に座っている花嫁に何か悪戯をしたりはしなかったのである。 確かに若い衆は、酔っ払いはしたが大人しく、婚礼に憧れていて、厳粛な行事だとわきまえていたのである。自らもいずれは嫁を貰う日が来るであろう、その時にはやはり今日のこの婚礼の様に、村人達に憧れを持たれ、喜びを分かち合って祝われたいといった願いがあったので、地主らに普段抱いている敵意も、小作人達は、婚礼は婚礼の行事として捉え、普段の不平不満は頭から消し去って、今回の目出たい行事を台無しにしてやろうなどとは、微塵も考えていなかったのである。 (了)
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