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2009/10/31(土)
(子)守犬 ちょいだし
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それがマスタング邸にやって来たのはとある良く晴れた日の事だった。珍しく事件も何もなく定時で上がれた国軍大佐とその連れとその護衛は市場で旬の野菜など買込んで晩のメニューを検討しあいながら家路についた。あたりはもう薄暗く黄昏という名がぴったりのそんな時間。 「ちょっとここで待っていて下さい」 いつものように車を門から入れようとハンドルを切ろうとしたハボックの手が止まった。その声がいつもと違うのに大佐の膝でのんびりしていた金色の身体がピクンと反応し 「どうした、ハボック」 ロイもそれに気が付いて金の耳を撫でていた手が止まる。 「不審物が玄関の前にあります。洗濯物を入れる籠ぐらいの大きさで形状もそれに似ています」 それだけ言うとハボックはそのまま車のドアを開ける。護衛官の顔をした男の手にはいつの間にか黒い鉄の固まりが握られていて 「安全を確認するまで大佐はここに居て下さい」 さっきまでかぼちゃの料理法について説明してた男とは別人のようだ。 「応援を呼ばなくていいのか、少尉」 ぎゅっと俺の背中にある大佐の手が握られる。 「なに、手違いで近所の洗濯屋が置いて行った物かも知れません。一応安全は確認したいからあんたはそこで大人しくして待ってて下さいよ。相棒、大佐を頼むな」 へたくそなウィンクに相手は任せておけと言わんばかりに わんっ! と一声元気良く吠えた。 ロイ・マスタングの膝に寝ていたもの─それは金色の毛並みをした大きな犬だった。
大佐を頼むとあいつが言った。もちろん言われなくたって俺はそうするさ。俺は大佐の『ごえい』だもの。 「しー、ジェイ。大人しくしておいで」 膝から降りて大佐の前に行こうとする俺を大佐が首輪を掴んで止める。それでも窓から外を見ようと首を伸ばした俺の目にぼんやりとあいつの姿が写る。ゆっくり慎重に玄関の前に近づく。その先には朝にはなかった茶色い固まり。 何かな?確かに朝出る時にはなかったけど。それであいつが真面目な顔するのも、大佐があの白い手袋をするのも判らない。良くは見えなかったけど嫌な感じはあの茶色の固まりからはしない・・ように思えた。犬の勘ではね。だから わぅ。大丈夫だよ。変な物じゃないよ。 と安心させるように手を舐めたけどやっぱりそれは大佐には伝わらなくて 「ああ、ジェイ。怖がらなくて良いんだよ。きっと大した事じゃないから」 て逆に俺が頭を撫でられた。うーん怖がってる訳じゃないんだけどね。 「ああハボックが近づいて行く・・あれは何だ?確かにバスケットみたいだが高さはそれ程ない。テロリスト共が仕掛けた物にしてはかわいらしいが、それが作戦だとしたら・・」 不安を紛らわせるように大佐は様子を説明してくれる。 「今周りを調べて・・ああ、あんまり顔を近付けるんじゃない、センサーなんかがあったらどうするんだ、馬鹿モノ」 せんさーって何?聞こうとしたけどやめた。俺の背中にある大佐の手がほんの少しだけど震えているのが判るから。 「あ、馬鹿そんな安易に開けるんじゃない・・!」 ぎゅ。毛皮ごと掴まれた背中がちょっと痛いけどそれは我慢したところで 「クリアーです、大佐。・・ちょっと来て下さいー。」 あいつの声が聞こえて大佐と俺は慌ててドアを開けた。
「えーとそのこれが中に入っていました・・」 何とも言えない表情でハボックは茶色の大きいバスケットの中を指差す。そこには 「なんで・・?」 白いタオルが一杯敷き詰められて わぅ?なにこれ?小さい人間 黒い髪の赤ん坊がすやすやと眠っていた。 胸に小さなカードを乗せて。カードにはこう書かれていた。 「名前はフェリックス。あなたの子です。守って下さい」と。
「私は無実だっつ!」 「どの殿方もそう言うものです」 「しかし本当に身におぼえがないんだ!」 「そろそろ吐いちゃったらどうスかー楽になりますよ」
マスタング隠し子騒動勃発。ただいま絶賛製本中・・。
明日は最初の30分ばかりはお買い物タイムとさせていただきまーす。どうぞ遊びに来て下さいませ。
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