日々是不穏
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2009/10/05(月) 季節SS「月と犬」
犬と月

「たいさぁー、御注文のお団子できましたー。んでこれどうするんスか?」
「ああそれはこっちの台の上に置いて・・違うそうじゃない、ちゃんと山みたいに積んで置くんだ」
「まったくまた何を始めたんだか・・」
静かに暮れる10月の宵。とある家の中では黒髪の大佐と金髪の少尉が何やら忙しく準備していて
わぁーう? ねぇ大佐これ何?もうごはんは済んだのに何だか白くて丸いものがでてきたけど、これでざーとかな?だってちょっと甘い匂いがする。
その傍らにはいつもと違う様子に青い目を見開いて様子を見守る金色の大型犬。
「さぁ、これで準備は整った。ほらジェイ、こっちにお座り」
わん!はーい。
庭の真ん中には居間から持って来たラグが敷かれその上には木でできた四角い台が置いてある。台の上には白い団子が積み重ねられその横には金の穂を揺らすススキが細長い花瓶に生けてあった。
その後ろにはこれまた居間から持って来たクッションに座った男2人に犬一匹。左右をお気に入りの犬に挟まれて黒髪の大佐は満足げに微笑んだ。
「・・でこれは一体何の儀式なんすか?」
昼間からやれ団子を作れとかススキをとってこいとか走りまわされたハボックはやれやれと手にしたグラスを傾ける。
「これは月見というものだよ、ハボ。東のシンよりもっと向こうの国ではこの時期の月を『中秋の名月』と言ってこうして特別に愛でるんだ。この団子とススキはその時に供えるものだとファルマンが教えてくれた」
「まーた出所はファルマンすか。じゃあ後はただお月さん見てるだけ?」
「それが風流というものじゃないか。忙しい日常をほんの一時忘れてあの輝く月を愛でる・・なんとも落ち着いた気分になるだろう?なージェイ」
横でお行儀よくお座りしてる犬は頭を撫でられて嬉しそうにくうと鳴くがそれがロイの言葉に賛成してるかはまた別の話。
うーんと、つまり月を見てれば良いって事だよな。でも今日の月も昨日の月も俺には同じに見えるけど。それに月を見てると何かドキドキするんだよなぁ
「俺にはいつもの月と別に同じに見ますけどねー。それに月を見てると落ち着くと言うよりなんかムズムズしません?なんかこう叫びたくなるというか」
「オオカミ男かお前は。こうして心落ち着けて静かに過ごすのがワビサビの境地なんだぞ」
「ワビサビねぇ・・」
こっそり月ではなくロイの横顔をハボックは盗み見る。月光に照らされた白い肌はツヤツヤで触ればきっとあの丸い団子よりモチモチだろう。うっとり月を眺めるその姿はハボックにとっては月よりずっと魅力的で。
「ワビサビよりロマンチックな気分になりませんか、ロイ・・」
そっと耳元で囁けば黒い瞳が見開かれる。そのまま手を握ろうとしたところで
「月見で発情するなー!この駄犬!」
「ぎゃん!」
躾のなってない犬に容赦ない鉄拳が落とされる。
「全く時と場所をわきまえんか。大体ジェイを見ろ、同じ犬のなのにこの落ち着いた姿はどうだ」
同じ犬はないだろうと頭を抱えたハボックが反論しようとした時だ。
わぉ〜ん!
唐突にそれまで大人しくしていた大型犬が喉を震わせて月に吠える。
「ジェイ?どうした?」
うぉ〜ん!
一体何事かと声かけるロイの事も無視してなお遠吠えは続く。
「ほら、相棒だって月を見れば心が騒ぐんですよ。俺らにはどうもワビサビは合わないみたいっすね」
だから仲良くしてと抱きつくハボックの腕をパシリとはたいてロイは赤くなった顔を月に向けると小さくつぶやいた。
「・・しょうがない犬達だ」
言葉とは裏腹にその声は2匹の犬には月光の蜜より甘く響いた。


月が綺麗だったから突発的にお月見ハボワンコです。犬の遠吠えは仲間を呼ぶためと言われてますが、本当に犬は月を見ると興奮するんでしょうかね。


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