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2009/07/14(火)
がんばれ
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自分は決して勇気があるわけじゃない。暴力は苦手で口論すら女性に負ける。軍人になったのだって安く教育が受けられるというただそれだけが理由で。決して国の事を憂いてとか思ったわけじゃない。こんな実技も体力も無い男は戦史編纂室ぐらいしか用がないだろうと軍人になった当初は思っていた。目立たず、役にも立たず退役まで穏便に過ごせる事だけを思って過ごして来た日々。それが変わったのは 「君の記憶力は素晴らしいな。それは立派な戦力になるぞ」 ひょんな事から自分の特技にイシュヴァールの英雄が気がついた時。 「頼む、その能力、私のために使ってくれないか」 君が必要だと言われたのは多分生まれて初めて。しかも英雄と呼ばれる程の人物からなんて聞いた時は自分の耳を疑ったくらいだ。 それから始まった日々は昔から想像もつかない程騒がしく、めまぐるしかったけれど充実していて。彼が声をかけてくれなければ自分はきっと一生薄暗い書庫に埋もれていただろう。彼の目指すものその先が一緒に見れるなら─だけど 「すいません、大佐」 ああ、こんな役柄自分には無理だ。恐怖で足は震えるし涙どころか鼻水だって出てる 「どきたまえ、ファルマン」 きっとリタイアした同僚なら余裕の笑顔でNOと言えるだろう。でもそんな勇気自分のどこを探してもなくて。 「俺、ここで死ぬかも」 言えたのはただそれだけ。みっともなくて情けないけど─けどあの隻眼の前から動かない事が私の矜持。
97話感想SS。がんばれ少尉。
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