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2012/12/10(月)
SS『雪犬』
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なんか嫌な事件が起きてるので少しでも明るくなるように。本当に早く解決して欲しいものですね。折角本を作ったのに参加できないって酷い・・
『雪犬』 「第一小隊列にならへ!」 号令一下ざっと男達が横一列に並ぶ。その先に広がるのは白銀の世界。昨晩降った雪で真っ白になった東方司令部の練兵場だ。 「ルールは簡単。相棒より早くボールをゲットするかボールをくわえた相棒が大佐の所に戻る前にタッチできるかそれだけだ」 「サー、イエスッサー!」 「ただし尻尾を掴んだりラグビーみたいにタックルするのは無しだ。絶対怪我はさせない事。タッチできたかどうかは自己申告でかまわない。お前らがインチキするような奴らじゃない事は俺が知ってるからな」 「サー、イエスッサー!」 「1人でもタッチできたら道路の雪かきはブレダの隊の役目となる。では位置について」 「サー、イエスッサー!」 「GO!」 冬の抜けるような青空にポーンと青いボールが投げられる。ざぁっと駆け出す男達の足下をすり抜けて金の光が走った。ぐんぐんスピードを増し白い雪煙を蹴立てて走るそれは1匹の犬だ。金の毛並みが光を弾き真っ白い世界の中それは金色の風そのままに一直線にボールの落ちた地点を目指す。 「うーんやっぱり犬の足に人間は敵いませんねぇ」 「さすがはジェイだ。見ろ雪の中を走る姿の美しい事。お前の部下なんかに捕まえられるものか」 「いや勝負はこっからスよ、大佐。ここに戻って来るにはあいつらの包囲網を突破しなきゃなりませんからね」 それは恋人の飼い犬自慢にちょっと拗ねたハボックが言い出した一言から始まった賭けだ。 いくら優秀でも犬は人には敵いませんよ。じゃあ賭けようか。よし受けましょう。わん! たわいもない言い合いを何処まで理解したかは不明だが悪天候が続いたせいで散歩に行けなかった犬はやる気満々だった。だたでさえ白い雪は犬の本能だか何かを刺激するらしく執務室に居てもどこか落ち着かない風情でロイがこんな賭けを言い出した一因はそこにあった。 目的のボールをくわえた犬はすぐに反転しこちらめがけて走ってくる。だがそこにはむくつけき男達の壁が立ちはだかっている。どうせ足では犬に敵わないと早々に諦め絶対の布陣を敷いて待っていたのは戦術的には正しいがいかんせん練兵場は広い。障害をみるや右に方向転換した金の毛玉を追って男達はわらわらと走り出し人の網は脆くも崩れた。 「お?」 それを見計らったのかもう一度方向転換した犬は今度は真っすぐにこちらに向って駈けてくる。伸びてくる男達の手を次々とかわし足下をすり抜け金の弾丸となった犬を止められる者はいない。 「ったくしょうがない部下どもだ」 ふがいない部下を嘆いてハボックは上着を脱ぐとロイの前に立ちふさがった。 「来いよ、相棒。男同士差しの勝負だ!」 ぐっと腰を落として両手を広げる。眼光鋭く前を見据えればその気迫が伝わったのかぐんとスピードを上げた犬の姿はみるみる近づいた。広げた手をかわすつもりかそれとも足の間をすり抜けるかとそこにいる全員の目が集中しただならぬ気配があたりにみなぎった時 「おいで、ジェイ!」 高らかな声が犬を呼ぶ。だがそれはハボックの後ろからではなく 「え?」 そこから10mぐらい先の場所だ。いつの間に移動したのか青い軍服に黒いコートを着た人影はこっちだと手を振り 「大佐、ずりぃ!」 慌てたハボックがそっちに走り出してももう遅い。飼い主の動きに軌道修正しながら走ってた犬に敵う訳もなく金色の犬は押し倒す勢いで大好きなご主人様の腕の中に飛び込んだ。 「ゲームセット!」 審判役を仰せつかったフューリーのホイッスルが高らかに鳴り響きそれに合わせるようにわんと勝利を宣言する金色の大型犬をロイは思い切り抱きしめた。
「あれは無いっすよ、大佐〜」 「何を言う。用兵は臨機応変にだ。私が動いちゃいかんというルールは無い」 わーぅ!そーだよ
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