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2014/01/27(月)
SS海亀が来る日
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旅行の画像なんか整理してたらちょっと妄想が降りて来たのでアップ ロイ─地質学者 ハボックーライフセイバーを目指す雑貨屋の手伝い、みたいな
海亀が来る日
「いらっしゃーい、ロイさん」 カランと鳴ったドアベルに目を上げれば黒い頭が見える。途端に跳ね上がる鼓動を鎮めて俺はとっときの笑顔を浮かべた。 「お久しぶりです、2週間ぶりぐらいでしたか」 「ああ第三火口がすこし活発になってたんでデータの収集に手一杯だったからな。おかげで好物のトマトスープが切れた」 「言ってくれれば配達に行ったのに」 「あの山のてっぺんまでか?配達料を想像したくないよ、ハボ」 「ロイさんはお得意さんだから!もちろんタダです」 さりげなく貴方は特別をアピールしつつ俺は渡されたメモの品物を段ボールに詰める。当の本人は俺の言葉に潜む意味を全く気付いてないのかラックにあった新聞を見ていた。
俺の故郷は火山と海しか無い寂れた島だ。すぐ隣の島は世界でも有数の観光地として発展を遂げているのにこちらはほとんどその恩恵がない。若者は大抵隣の島へ出て行き有り余る自然だけがこの島の財産だ。 ロイさんは地質学者で火口近くにある観測所にほとんど1人で勤務している。ヘタに噴火なんかが起きたら一番危ないから誰も行きたがらないそこに正確なデータが取れるならと笑って住んでる彼は俺の実家─ハボック雑貨店の数少ないお得意様だ。 南の島なのに白い肌と黒曜石みたいな黒い瞳、口数は少ないけどたまに笑う顔が可愛くて俺はいつしか彼に恋をしてたんだ。
「はいこれで全部〜結構な量になりますね。あ、後注文していた雑誌や本着くのがどうも午後の船便になりそうなんです」 「それは困ったな、また明日来るのもめんどうだし・・」 本心は片時も火山の傍から離れたくないのだろう。何が彼をそんなに研究熱心にさせてるかは判らないが俺はちょっとばかり彼を捕えてる火の女神に嫉妬している。 「あと2時間ばかりで来ますから。それまでちょっと待ちません?そうだ海岸へドライブなんかどおっスか?もしかしたら海亀が来てるかもしれません」 決死の覚悟で言ってみる。彼にしてみりゃ俺なんかただの店の店員にすぎないだろうが少しでも意識して貰えるチャンスは逃したくない。友達は無理でも顔見知り、できれば気の置けない話相手ぐらいにはなりたのだから 「海亀か・・それも良いな。でもハボック店番は大丈夫なのか?」 「2時間ぐらい締めたって文句言う気短な奴なんかこの辺にいませんよ!」 「それもそうだな」 ふわりと笑う顔は屈託がない。どくんとまた跳ねあがった心臓に俺は密かに決意する。 溶岩が砕けてできた黒い砂のあの海岸にもし海亀の姿があったら─ この気持を打ち明けてみようかと。
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