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2013/09/13(金)
美しきもの見し人は
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私が若いころ好きだった堀田義衛の本の題名がすぐに浮かんだ。高齢者ケアのボランティアをしていた今週の月曜日、私がボランティアを始めたときから一言も音を発しなかった、もちろん食事もとれず(家では流動食らしい、まだ胃からのチューブではないそうな)、右手は固まらないようにだろう、いつも何かを握らされているが、左手の指はまだ自由に動くことを発見した車椅子の日系アメリカ人のヘレンさん、みんなで楽器を鳴らす活動をするのに、ケアする人がヘレンさんには何も渡そうとしないので、私が行って、ヘレンさんはまだ左手が使えるから、何か握らせてあげよう、とベルをもらって、ヘレンさんの左手に握らせようとすると、なんとヘレンさん、胸の底から押し出すように、ゆっくりと「あ・り・が・と」と声を出してくれた。信じられなかった。ええっ、ヘレンさん、しゃべれるの、それも日本語が出てきた。奇跡だ、と思った次の瞬間、美しきもの見し人は、という言葉が浮かんだのだ。ヘレンさんはたぶん英語の人だろう。が、高齢の日系人は、簡単な日本語はわかるのでは、という気持ちがあったから、私は日本語と英語のちゃんぽんで話しかけていたのだ。まさか彼女の口から言葉が、それも日本語が出てくるとは。すごくうれしかった。ああ、よかった、よかったと彼女からエネルギーをもらった。ただ、一言発声したあと、疲れたのか、ただただ頭を下げて、居眠りに落ちた。眠りにつく前の「ありがと」は、母の最期を思いださせる。(悲)へレンさん、来週も元気で来てくれますように。。2週間ほど見なかった、同じく日系人のケンさんは、体調を崩してしまったようで、以前のように、ケアテイカーにうとんじられるほど元気に徘徊することもなくなり、椅子に座って下を向いたまま、しかも以前に見られなかった両手のふるえがあった。ああ、年をとるとはこういうことなんだ、と改めて思った。ちょっとしたことでも病気になれば、それが引き金となって、だんだん弱っていくのである。(悲)もう一人の日系人のナンシーさんからはプレゼントをもらった。食欲旺盛の元気な人だから、何か食べやすい日本のお菓子でももっていってあげよう。「おしょうゆをかけてでも、日本のごはんが食べたい」と言った日本人女性には、電子レンジで暖めるだけのパックのご飯をもっていったら、喜んでくれた。「おかずは大丈夫ですか。お漬物でももってきましょうか」と聞くと、赤いのが好き、とのこと。赤いのって、紅しょうが?と、料理をしない人間が聞くと(笑)、首を振った。う〜〜〜ん、思いめぐらせて、福神漬け?と聞くと、にこっとしてくれた。じゃあ、来週はご飯と福神漬けにしよう。。娘さんと同居してるそうだが、やっぱり日本食までは期待できないのでは。私の娘は大丈夫???(笑)私の心の底では、20年前、サンフランシスコで助けてあげられなかったエイズ患者の日本人男性の言葉がいつも聞こえてくる。NPOがもってきた卵とチーズとミルクのアメリカ食が食べられずに、だんだん体力をなくしていった人だ。お母さんにもう一度会いたい、と私に臆面もなく言った。美しきもの見し人はー身体が病に冒され、年をとり、もう人間のエゴをすべてそぎ落とした人々は美しい。涙が出るほど美しい。いつもいつも美しいものだけを見ていたいと思う。(悲)元気で生きてる人間ほど汚いものはない???私かも。。(笑)
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