|
2006/10/10(火)
[アベック歌合戦]って知ってる?
|
|
|
『じろりん』が子供の頃、『アベック歌合戦』という番組があって、司会の『トニー谷』は大変な人気で一世を風靡していました。(最近、『清水アキラ』がモノマネをしています。)
でも、私が昭和四十七年に上京して、日生劇場の大道具をしていた頃には、もうすでにピークを過ぎていました。
東京で大変お世話になった演出家で舞台装置プランナーの『望野智先生』から聞いたのですが、その頃のトニー谷は飛ぶ鳥を落とす勢いであり、超売れっ子で、当時の芸能界を肩で風を切って歩いていたそうです。
しかし、一番の失敗は裏方さんに嫌われた事にあったそうです。まさに人気絶頂と思われていたその時、ついに裏方さんの逆襲が始まったのでした。
『トニー谷』がさっそうと舞台に登場してきた時、口元まで上がるはずの舞台マイクが、中途半端で止まってしまうのです。
次に照明さんのピンスポットは、外れて当たっているし、音のタイミングは、ずれる、幕の開閉もチグハグで、散々な舞台になってしまったそうです。
その事があってから、一挙に人気が急降下して、ついには舞台でもテレビでも彼の姿を見ることはなくなってしまいました。
舞台芸術は、主役一人の力だけで成り立つものではなく、大勢のスタッフや裏方さんの一手一つの協力があってこそ成り立つもので、『トニー谷』さんはそれを、ないがしろにしたのが、こういう結果を招いてしまったようです。
日生劇場の楽屋のエレベーターで道具を運んでいる時、小柄な紳士が乗り込んで来ました。先輩が私に「今の人、誰だかわかる?あれが『トニー谷』だよ。」と教えてくれました。
誰か知り合いの楽屋見舞いに来られていたようです。その後、一度も彼の姿を見る事はありませんでした。
そんな事が影響しているのかどうかは、知りませんが、一ヶ月間の舞台が終わって打ち上げパーティーの席にはちゃんと裏方さんのテーブルも用意され、上京数ヶ月の見習で新米の私も、有名な演出家や役者さんに混じって大きな顔で出席させて頂きました。 どんな立場にいる人も、どんな役をしている人も、無駄な人は一人もいない、みんな一人一人それぞれ大切な、大事な役目があるという事を忘れてはいけないと、『トニー谷』さんの一件から教えて頂きました。
「考えて見れば、人生という総合芸術も、決して一人では作り上げる事は出来ないのだなあ。」と最近つくずく思うようになりました。
|
|
|
|