マスターのひとりごと
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2007/08/19(日) 江利チエミ
江利チエミと聞いて何人の人がその姿を思い出すであろう。
代表曲は戦後すぐの『テネシーワルツ』 。
美空ひばり,雪村いずみと並んで元祖3人娘と呼ばれた。
紅白歌合戦の司会も何度も勤めたビッグスターだ。
旦那さんはあの世界的大スターの高倉健。
彼の腕にすがってチエミが言った『ダーリン』という言葉は当時の流行語になったほどだ。
華やかな人生の前半である。
しかし彼女の晩年は一転して不運続きとなる。
自宅からの出火,姉による財産の横領、そしてあんなに愛していた健さんとの離婚と。
それは浴びせかけるほどの不運の連続だった。
実写版の『サザエさん』が彼女の当たり役だったけれど,実生活は孤独で寂しい人だったのだ。
俺がそんな彼女の歌の中で一番好きなのは晩年のヒット曲『酒場にて』
声量も落ち幾分掠れた声のチエミは絞り出すように切々と別れた人への未練心を歌っている。
別れた人(きっと,健さん)の事が忘れられずに暗い酒場のカウンターで酔いつぶれている主人公は彼女自身だ。
それは歌うというより語るという方が適切かもしれない。
今の40歳まえの歌手でこんな深い歌を歌いきれる歌手はいない。
ビリーホリディーかピアフ を彷彿させる凄みがある。
声も掠れ,容色も衰えそれでも歌に人生を投影している。
彼女はそんな孤独の中、誰にもみとられる事なく真冬の朝、泥酔して、嘔吐した物を喉に詰まらせ他界する。
ひばりのように特筆される歌手としての名を残す事も無くである。,
しかし俺はあの高倉健が再婚もせず浮いた話し一つなく現在に至っているのはきっと今でも彼女一人を愛し続けているゆえだと思う。
あの高倉健の心に生涯住み続けることができた女。
それは五月雨のように小止みない不幸に全身を濡らし続けた江利チエミの人生に送られる最高の勲章だと俺は思いたい。


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