マスターのひとりごと
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2009/04/12(日) 珈琲蔵 2
今でこそ自分の店の名前は『珈琲蔵』以外考えられなくなっている俺だが当初の予定が『サラソウジュ』であったという事を知っている人はほとんどいない。
『サラソウジュ』
平家物語の冒頭に出て来る花の名前だ。
漢字で書くと『沙羅双樹』
意外といかめしい字面だが耳からはいってくる音の優しさにその頃の俺は心引かれるものがあったのだ。
『サラソウジュ』
『アザブジュバーン』
聞きようによるとフランス語のようではないか。
それでいて平安美人が巻き紙にさらさらと小筆で認めたようなやわらかいたおやめの調べも耳に心地いい。
これしかないだろう。
家具や食器も夢二好みの大正ロマンで行こうとイメージを膨らませていた俺に、この店を設計してくれた先生から待ったがかかった。
すでに店名は決めているという。
はぁ?
施主であるこの俺の意見を抜きにして?
そんな横暴、許せんとばかりおっとりがたなで先生の事務所を訪れた俺に先生は悪びれる事もなく墨痕鮮やかに店名が認められた半紙を取り出して見せてくれた。
そこには味のある文字だがマスラオの象徴のような雄渾な筆使いで
『珈琲蔵』
と書かれてあった。
県展などでも審査員をつとめている偉い人に先生自ら赴いて書いてもらったものだそうだ。
先生いわく
『酒蔵やみそ蔵が当たり前のようにあってなぜコーヒーの蔵があってはならない』
最もだ。
最もなんだけれど、それと俺の店の名前とどう結びつくのだ。
『コーヒーの蔵にも市民権を与えてやりなさい』
はぁ?
『それがあんたの使命ですぞ。』
使命って。
『わかれば、四の五の言わずに珈琲蔵で行きなさい』
先生はそれ以外にないといわんばかりの口ぶりでそういう。
凄いこじつけだがなんか説得力はある。
軟弱な俺はやがて
『それも悪くないかな』
と思うようになった。
雄渾な筆文字と先生の気迫に勝つ事は容易ではなかったと言い訳させてもらおう。

最終的にはテーブルの天板として使用されていた古い板に朱色でその味のある文字を彫り込んだ看板まで先生が開店記念にプレゼントしてくれ『珈琲蔵』は誕生したわけだがときおり『サラソウジュ』だったらどんな店になっていただろうなと未練がましく思う時がある。
19年も続いていなかったりしてね。
なんせ諸行無常の不吉な花の名前だからあっけなくほろんでいた可能性も高い。

それにしてもいまでは当たり前のように使用している『珈琲蔵』のマスラオな書体。
書いてくれた偉い先生にはその後、一度もお目にかかる事もなく今日に至っているわけだが店名を簡単に変更したアバウトさから比べるとそれも許されるような気がしているのは俺だけだろうか。
どんな方が書いてくださったのか一度お会いしたいようなしたくないような。
そんな思いを抱いたままもうすぐ20年を迎える。


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