マスターのひとりごと
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2010/10/13(水) ご無沙汰
最近、自伝的小説を書いている。
最初は軽いノリで書きはじめたのだが、執筆が進むにつれ、記憶が掘り起こされ、次第に長い物になって来た。
すでに、この世にいない祖父母や父に捧げる鎮魂歌になればと思いつつ、日々、執筆に励んでいる俺だ。


  マスターができるまで  2



ゆうさんには鉄工所に勤める息子がいた。
それも祖父が斡旋したらしいのだが祖母は詳しくは語らなかった。
自慢の息子で俺の家の風呂釜が故障したとか、ベランダに冊を作るとかいう大工仕事を頼むときはゆうさんが喜々とした顔で祖父の隣に立って陣頭指揮をしていたものだ。
その息子に縁談話が持ち上がった。
相手は兵庫の山奥の人らしい。
ある時、ゆうさんが思い詰めた顔でやって来た。
『奥様と先生にあつかましいお願いがあるんですが』
ゆうさんは風呂敷に包んだ祖父の好物の塩羊羹を出しながら言う。
兵庫の山奥まで、縁談相手の身上の聞き合わせに自分と一緒に祖父に行って欲しいというのだ。
お茶を出すために膝立ちになっていた母は一瞬たじろいだ。
老いたとは言え、男である祖父と、泊まりがけの旅行に行こうと言っているのだ。
母は当然、祖母がその話しを拒否すると思ったらしい。
しかし、祖母はさらりと塩羊羹を自分のほうに引き寄せながら
『お話はようわかりました。
 主人の都合のええ時にお供させますけん。』
と答えた。
むしろ当惑したのは祖父のほうであったが祖母の
『日頃、お世話になっとるゆうさんの頼みじゃもの、行って見極めてきてあげなさい』
という勧めに、次第が気分が大きくなってきたのか
『ワシの目は確かじゃけぇなぁ』
などと言い出した。
その後、祖母は涼しい顔をして有馬温泉に旅立って行く祖父とゆうさんを見送った。
父や母は
『人目もあるがな』
と祖父の有馬行きを最後まで渋っていたが祖母は恬淡とした表情で
『アホらしい。
 ゆうさんとやこう』
と取り合おうとしなかった。
旅から帰って来た祖父は何か聞きたそうな顔をしている父をみるとことさらに
『ゆうさんとやこう、何にもあるはずがないがな』
と笑い飛ばし、照れ隠しのように俺を担ぎ上げ
『善洋ちゃん、おじいちゃんがおらんで寂しかったか?』
と聞いてきた。
するとそれまで祖父や父の話しなど聞いていないような顔をしていた祖母が
『寂しいわけないがなぁ。
 おばあちゃんがおるんじゃけん』
とさらりと言った。
にわかに祖父は苦虫をかんだような顔をした。


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