マスターのひとりごと
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2010/10/14(木) 今日の事
今日はフリーペーパーの取材があり、色々写真を撮られた。最後は記者の女の子とのツーショットまで撮られ、なんか緊張したなぁ。
というわけで今日の小説です。

   マスターができるまで  3


有馬温泉から帰ってしばらくしての事だ。
祖父がバイクに跳ねられた。
さわやかな5月の夕方であった。
俺を連れた祖父が、餅屋の主人と店頭で立ち話に興じていた時にその事故は起きた。
相手は前方不注意の銀行の外回りのバイクであった。
当時、祖父は、現役を退いて隠居暮らしをしている商店街の旦那さん連中と『ゴジャヤマ倶楽部』という趣味の会を結成しており、野崎邸の番頭さんなどを頭にすえ、趣味の話しにうつつを抜かす贅沢な日々を過ごしていた。
その日も次回の例会に用いる赤飯の事で餅屋を訪ねていたのであった。
餅屋がお世辞に俺の事を可愛いと褒めたからか、軒先につくっていた燕の巣を俺が珍しがったからか、まっすぐ帰れば良かった物を店先で長話に興じていた矢先の事故であった。
祖父の話しに退屈していた俺は片手を祖父に握られたまま向こうから走ってくるバイクの気配に気がついていた。
ちょうど道の曲がり角に位置していた俺達の気配がバイクからは見えなかったのかもしれない。
スピードを落とす事もなくバイクは俺達のほうに接近してきた。
あっと言う間のことだった。
バイクが突っ込んで来た瞬間、祖父は俺を横抱きにして、地面にうずくまるような姿勢をとった。
俺は何が起こったのか理解できなかったが頭上にのしかかった祖父の体の下で餅屋の狼狽した声とバイクの若い男のオロオロした声にただならぬ気配を察し、火がついたような声で泣きはじめた。
ぶつかった本人の祖父はその泣き声で俺のほうに怪我があったのかとよろよろと起き上がり
『善洋ちゃん、どこかあたったんか?』
と聞いて来た。
祖父の体がなくなり視界が開けた先には俺達のまわりをうろうろする蒼白な顔の銀行員の姿が見えた。
『先生、肘の所から血がでようりますよ』
餅屋の声で始めて祖父は怪我をしたのが俺ではなく自分であった事を悟ったようであった。
『ワシは大丈夫じゃ』
祖父は虚勢をはった。
俺が無事だった事で気が大きくなっていたのだろう。
祖父はそんな男であった。
銀行員は平謝りに謝っている。
『あんた、どこの銀行のもんじゃ?』
祖父が聞いた。
銀行員はまだ学校を出て間無しのような若者であったが意外としっかりとした声で地元では一番知名度のある銀行の名前をあげた。
『しっかり前をみとらんか。
 このアンゴウが』
餅屋の怒声を遮るように
『ええ、ええ
 見たらまだ若いもんじゃ
 こがなことで将来に傷をつけたらワシも寝覚めが悪い。
 こらえてやるから、いになさい。』
とお大尽風を吹かした。
『先生、そりゃあ、いけん。』
かつて、その銀行に融資を申し込んだ所すげなく拒否された経験のある餅屋は江戸の敵を今こそ打たんとばかりに、事の理非曲直を申し立てた。
ノリのよくきいたパリっとした祖父の白いワイシャツが次第に出血で赤くなって行くのを見ていた俺はこのまま祖父が死んでしまうのではないかという恐怖にかられもう一度激しく泣きはじめていた。


*アンゴウ バカとかアホと言う意味
*いになさい 帰りなさいと言う意味


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