マスターのひとりごと
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2010/04/08(木) 達者でな
三橋美智也に『達者でな』と言う大ヒット曲がある。
歌の舞台は農村で、小さいころから手塩にかけて大きくした愛馬が町に売られて行く切なさを歌っている。

『わらにまみれてよ 
 育てた栗毛
 今日は買われてよ 
 町に行く』
人馬一体になって成長したその後
『町のお人はよ
 いい人だろうが
 変わる暮らしがよ
 気にかかる』
売られていく愛馬のその後を気遣い、
『達者でな』
とあたかも人間にいうように語りかける。
二人で走った月の河原の思い出は忘れないよと言い、
『かわい
 たてがみ
 なでてやろ」
と別れを惜しむ。
純朴な愛馬への思いをジャズのフィーリングに乗せて魅惑のハイトーンで三橋美智也が歌う名曲だ。
先日、俺の店で、この一年、さんざん、手を焼いたバイトが無事卒業した。
水の入った花瓶をこちらに持ってこいと命じたところ、何を思ったのかいきなり横にしてしまい水をこぼすようなテンネンの男だ。
困惑すると細い目をさらに半眼のように細め、乏しい表情でうろうろと胡乱な行動をとる。
物言いも無骨で本人は意識していないのだろうが絶えず、俺の言葉尻を捉えてくる。
その捉え方がナマジうがっているだけに俺はさらにいらだちを募らせる。
なんど注意してもその物言いは直らず、粗忽な振る舞いは枚挙に暇がない。
利口なのかバカのなか判断がつかないヤツで時には俺でも舌を巻くような事を口走りる。
ひとくちで言うと可愛げのないヤツだ。
最初はこんなヤツ、最後までは勤まらないだろうと思っていた。
俺が叱っても自分の頭の中で理解できないと何度でも聞き返して来る。
何度でも何度でもだ。
そいつには予定調和というものがない。
ないから納得するまで問いつめる。
その態度がさらに俺を激怒させる。
最悪の螺旋になるわけだ。
ひどい時など、延々、二日にわたって叱られ通しという時もあった。
叱られた男も男だが今にして思えば、叱った俺も俺かもしれない。
その都度凹み、あげく、俺にクビを宣告される。
普通のバイトならここでさよならなのだけどしかし、そいつは違っていた。
ここでやめたら今まで、叱られた事が無駄になるし、やめた後でも笑顔で店に来たいから円満な辞職以外はいやだと頑張る。
粘り強さが悪いほうに出ると、俺を激怒させる振る舞いになるのだが、それがいい方にでると最後まであきらめない懸命さになるのだ。
一週間前にも俺が激怒する事があって、後少しで卒業なのにこれでアウトがと叱りながらも俺は内心ではハラハラしていた。
そのときの俺の激昂は尋常ではなくそいつも相当,肝を冷やしたみたいだがそれでもめげなかった。
許してやるよと言うと、そいつは相変わらずの細い目をさらに細くして笑った。
そして、先日、無事仕事修めを迎えた。
青息吐息ながら完走したというのはこの事か。
お別れの宴はカラオケでと言う事になった。
この春からそいつは県北のほうで寮生活をはじめる。
牛の勉強をするそうだ。
何をさせても粗忽なそいつの事だから牛の蹄を削っていて、蹴られて怪我でもしないか、今から心配であるが、とりあえず、新しいステップに向かってそいつは旅だって行くわけだ。
俺の店で味わった叱られる事の切なさを糧に今度は県北で何かを掴んで来て欲しい。
もしかしたら叱ってくれる人さえいないかもしれないが。
それもでお前のいいところをマスターは知っているぞ。
細い目で笑うと子供のような顔になる事もな。
『達者でな』
牛の勉強をするそいつの餞に、馬ならぬ惜別の思いを込めて歌ってやった今夜の俺だ。


追記

この日記を書いていたらその男からメールが届いた。
そこには俺の事を
『マスターは畏怖すべき俺の師匠でした』
と認められていた。


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