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2007/06/02(土)
お散歩小話 その4
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ジュリアは「こんにちは」と「バイバイ」を明らかに使い分けている。 近づいてきてほしいときや、安全だと判断した場合は「こんにちは」。 離れて行ってほしいときは「バイバイ」だ。 警戒している時はだんまりを決め込む。
向こうから大型犬が近づいてきたときは「ごあいさつは?」と言っても「バイバイ」と言う。 髪をきんきらきんに染め、最新流行の派手な格好をし、サングラスをかけたお兄さんたちにも「バイバイ」と言ってしまう。 言われたお兄さんたちは「嫌われたな…」と笑いながら去ってゆく。 小さな子が、拾った木の枝を手に持っているときも「バイバイ」と言うことが多い。そういう時は「オウムさんは棒を怖がるから、後ろに隠しておいてね」とたのむ。たいがい、子供たちはちゃんと言うことを聞いてくれる。 手を伸ばしてくる子も苦手だから、「オウムさんは怖がり屋さんだから、手を伸ばさないでね。」と教える。
困るのはデイケアハウスから散歩に来ているお年寄りの方々が近づいてこられた時だ。 認知症のお年寄りもいらっしゃるわけだから、ジュリアは雰囲気を察知して、警戒態勢に入ってしまう。 そして、だんまりを決め込む。 神経質な種類の鳥だから、何かしら違和感を感じると、警戒してしまうのだ。 オウムの「こんにちは」の一言で、認知症のお年寄りの方々も喜んでくださると思うのだが、なかなかうまくはいかない。 まだまだ『癒し系』のオウムにはなれないな…。
最近のことだ。 そろそろ帰ろうかと歩いていると、向こうから子供を抱っこしたお父さんとその子のおばあさんらしい人がやってきた。 お父さんはお子さんを車に乗せた。
その時、品のいい感じのそのおばあさんがジュリアに気づいた。 とても優しそうな方だったので、ジュリアは喜んで「こんにちは」とごあいさつをした。 おばあさんは「ちょっと、ちょっと」と息子さんに声をかけた。ジュリアに気づいたお父さんは急いで車の中からお子さんを抱き上げ、お子さんがオウムを見えるようにした。
一瞬、心の中に緊張が走った。 そのお子さんは重い障害があり、体を自由に動かせなかったのだ。 それでもジュリアに興味を示し、その動かしづらい腕を、一生懸命ジュリアの方に伸ばしてくる。 ジュリアが警戒してしまう状況だ。 「バイバイ」しか言わないだろうということも十分予想できた。
いつものように「ごあいさつは?」と言ったが、やはりジュリアは「バイバイ」と言ってしまった。
笑みは絶やさなかったが、心の中はかなりあせっていた。 頼む!ジュリア!「こんにちは」を言って!
優しくジュリアに言った。 ゆっくり言った。 「ジュリア、お願い、『こんにちは』って言って?」
ジュリアはちょっとだけ考えて、言った。 「こんにちは」
お父さんは微笑んでお子さんをまた車に乗せた。 おばあさんも「ありがとうございました」と言って車に乗った。
ジュリア!ありがとう!「こんにちは」と言ってくれて! ジュリアに頬ずりしながらなぜまわした。
・・・・・ しかし、あせったなぁ・・・・
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