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2004/10/08(金)
名訳・珍訳・誤訳-2
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スタンダード・ナンバーのタイトルで名訳だと思うのは、ガーシュウィンの「優しい伴侶を(Someone to Watch over Me)」や、コール・ポーターの「君にこそ心ときめく(I Get A Kick out of You)」で、このふたつはいずれも大橋巨泉さんの訳だ、と何かの本で読んだことがある。 やはりコール・ポーターの名曲「I've Got You Under My Skin(あなたはしっかり私のもの)」なども、邦題のおかげで曲のイメージがすんなりと入ってくる。 逆に「悪魔と深海(Between the Devil And the Deep Blue Sea)」などは直訳過ぎて何のことだか分からないが、これには「絶体絶命」という別訳があった。 これならよく分かる。
映画のタイトルは、昔は日本語の題名がつけられていて、担当者の苦労が窺えるのだが、逆に今の感覚でいうと似たり寄ったりで分かりにくい感じがする。 『哀愁』、『旅愁』、『旅情』、『慕情』……。 これらの原題は順に『Waterloo Bridge(1940)』、『September Affair(1950)』、『Summertime(1955)』、『Love Is A Many-Sprendored Thing(1955)』だ。
ぼくが映画を盛んに見始めたころは、アメリカン・ニューシネマの全盛時代だったが、「ボニーとクライド」が『俺たちに明日はない(67)』になり、「ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド」が『明日に向って撃て!(69)』になるのだから、あと20年もすれば分かりにくいということになるのだろう。 『夕陽に向かって走れ:Tell Them Willie Boy Is Here(69)』というのもあったなあ(笑)。
最近の映画はほとんど原題をカタカナに置き換えたものなので、英語の知識のない人間にはさっぱりわからない。 『スターウォーズ』、『ロボ・コップ』ぐらいならまだしも、『リーサル・ウェポン』とか『ダイ・ハード』とか、最初に聞いたときは「??」だった。 最近でも『セレンディピティ(01)』とか『コラテラル・ダメージ(01)』などといわれてもなんのことやら…(笑)。 もっともどうしても原題のままでは都合の悪いタイトルもあるらしく、『The Butcher's Wife(91)』などは、ファンタジーなんだから『ブッチャーズ・ワイフ』ではまずいし(なにしろ日本ではブッチャーといえばまず思い浮かぶのは、プロレスラーだ)、『肉屋の妻』ではなおまずい…、と考えたのだろうか、ついた邦題は『夢の降る街』だった(って、おいおい)。
うまい訳だなあと思ったのは、ブライアン・デ・パルマ監督の『殺しのドレス(80)』。 原題は『Dressed To Kill』だから「殺すために着る」ということだが、ポスターのレストルームでストッキングを直す写真と雰囲気ぴったりでうまいと思った。
映画のタイトルで誤訳というのは聞かないが、曲名にはときどきあって、前出の「Someone to Watch over Me」も「誰かが見つめている」と訳されることが今でもあるし、サイモンとガーファンクルにも「君の可愛い嘘」というのがある。 これは原題を「You Don't Know Where Your Interest Lies」といって、動詞のLieと名詞のLieを勘違いした典型的な誤訳だろう。 もちろん正しくは(などとぼくがいうのもおこがましいけれど)「君は自分の興味がどこにあるかわかってない」というほどの意味だ。
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