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2004/06/30(水)
8人の女たち
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不思議な手ざわりの映画である。 『まぼろし』で人気のフランソワ・オゾンの作品だが、そうとは知らず見てしまった。
クリスマス・イヴの朝、山里の大邸宅に大学生の長女が帰ってくる。 そこ住んでいるのは主マルセルのほかには、妻、妻の母親、妻の妹、次女、二人のメイドという女性ばかりだ。 昼近くになっても起きてこないマルセルをメイドが起こしにいくと、彼は背中にナイフを一突きされて息絶えている。 折りしも降りしきる雪のため外部とは遮断され、電話線も何者かによって切断され、父親を殺した犯人は内部にいるということになってしまう。 帰ってきたばかりの長女が探偵の役回りになりアリバイを探っているうちに、実は彼女自身も前の晩密かに父と会っていたことが露見し、一気にみんな怪しげになってしまう。 そこに何やらいわくありげなマルセルの妹まで入り込んできて8人の女による虚々実々の駆け引きが繰り広げられる……。
ふだんあらすじなど書かないぼくがこう書くのは、8人の女がそれぞれソロを取って歌を唄うミュージカル仕立てになっているからだ。 うわああっ…フランス映画だあ…という微かな違和感(ぼく自身がフランスの文化や習俗に馴染んでいないところからくる違和感と、ミュージカルという演劇の一形式にうまく溶け込めない違和感)が、この映画の不思議な手ざわりを生み出している。
けれども、ふつう主が死んで歌唄うか?という常識から来る違和感はおそらく監督の狙いで、だとすればだれが殺ったのか(フーダニット)という謎は、この映画のスパイスに過ぎないということになる。
つまり、主が死に、それぞれが容疑者たり得ることによって一気に噴出する家族間のさまざまな感情……反発と親和力、憎悪と愛情、軽蔑と嫉妬、期待と失望、信頼と猜疑……これらを軽妙に描いてみせることがこの映画のテーマではないのか。 若いころにこんな映画見てたら女性不信に陥ってたかも…(笑)。
しかしユーモアとエスプリの効いた小粋な映画である。 室内だけで繰り広げられる人間模様だけに舞台演出を思わせるような光と影のコントラストの効いたカメラと、50年代っぽいカラフルでポップな色彩感覚も楽しかった。 できれば映画独自の表現方法も見せてほしかったけれど……。
女優陣は多彩だ。ベルリン国際映画祭では8人全員に銀熊賞が授与されたそうだけれど、 長女シュゾン役のヴィルジニー・ルドワイヤンの魅力はもちろん、妻役のカトリーヌ・ドヌーブとマルセルの妹役のファニー・アルダンの存在感が圧倒的。余談ですが二人はどちらもフランソワ・トリュフォの元恋人だ。 『階段を下りて左』以来ファンになったエマニュエル・ベアールの相変わらずの色っぽさにも参りました。
2002年 フランス 111分 DVD ヴィスタ・サイズ(スクィーズ) 画質 ★★★☆(最高は★5つ、☆はおまけ) 字幕の大きさ=中
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