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2004/08/30(月)
狼男アメリカン
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子どもは怖いものが好きだ。 胆だめし、お化け屋敷、怪獣、ヘビ女、吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男……。 子どものころ、怪獣やお化け、異形のものの登場する映画に夢中になった人も多いだろう。
そうした映画をリスペクトしながら現代風にアレンジしたのが、ジョン・ランディス監督の『狼男アメリカン』(81年・米)だ。 それにしても、この邦題なんとかならなかったんだろうか。 たしかに原題が『AN AMERICAN WEREWOLF IN LONDON』だから、訳すのが難しいのは分かる気もするけれど。 『アメリカの狼男ロンドンに現る』じゃオマヌケだものね。 でも狼男アメリカンがいるのなら、吸血鬼ハワイアンがいてもいいわけで、こうなるとちっとも怖くない。エイリアン・ボヘミアンなんて妙に訳のわからないのがいたりして……(笑)。
閑話休題。 ジョン・ランディス監督がこだわったのは、主人公が狼に変身するシークエンスだ。 『スター・ウォーズ』で一躍脚光を浴びたスペシャル・メイクアップ・エフェクトのリック・ベイカーを起用して、人間が狼に変身していくさまを丹念に描いている。 この映画の直前に、ジョー・ダンテが『ハウリング』(81年・米)という映画を撮っていて、ここにもリック・ベイカーは参加しているが、変身するシーンは夜の暗い場面だった。だがこの映画では煌々と照らす灯りの下で主人公が狼に変身していく!(そうしてこの流れがMTV時代の「スリラー」へと繋がっていくわけだ。)
画像は変身が始まり、掌が縦に伸びてゆくところ。有名なシーンだ。
当時はそういうシーンのみが喧伝されて、結局見る機会を逸していたのだが、今回初めて見て、ブラック・ユーモアの効いた悲劇という感じがして、なかなか見ごたえがあった。 ユーモラスな部分はジョン・ランディスの脚本によるところが大きいのだが、主人公の哀しみは中島敦の「山月記」を髣髴とさせる(ま、あれは虎ですが)。
もうひとつこの映画で特筆すべきは、悪人がまったく現れないこと。 自分のことしか考えない利己的な人物が登場して、ただでさえまずい事態をさらに悪化させては、終わりのほうで悲惨な死にかたをして観客の溜飲を下げるというのが、この手の映画の常套手段なのだが、『狼男アメリカン』ではすべての登場人物が真剣で、誠実で、職務に忠実で……。それが主人公の苦しみと哀しみをさらに深いものにしてるんだよね。ジョン・ランディスの人柄なんでしょうねえ。
ホラー映画なのに「Blue Moon」というノー天気なテーマ曲で始まるところも、のちの『ブルー・ベルベット』(デイヴィッド・リンチ、86年・米)に影響を与えているような気がした。
それからジョン・ランディス監督というと、映画のなかに必ず「See You Next Wednesday」ということばが登場するので有名だが、この作品では主人公が、殺された友人(の浮遊霊)に呼び出されて、一緒に見るポルノ映画のタイトルでした(笑)。
1981年 ユニヴァーサル 97分 DVD ヴィスタ・サイズ(スクィーズ) 画質=★★★(最高は★5つ) 字幕の大きさ=小
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