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2004年7月
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2004/07/01(木) 目に映るすべて、感じるすべて
立ち上がる波は視線よりも高い気がして、父の腰にしがみつく。波は崩れて、私の背中をドンって押し、ひゃぁって叫ぼうとする口は、塩水の味を知る。

片手で私を抱いた父は、もう片方の手でボードを抱え、テイクオフ出来る位置まで波を割って進んでいって、私を乗せてくれる。
今思えば、波は腰高くらいで、お天気は上々で、打って付けのオフショアの風は、遠くからくる小さなうねりに、砕ける前の輝きを与える。

おっかなびっくり板に立ち上がる私は、あっという間に目の前が全部海になっていて、両手に付けたフロートの力で波間に顔を出す。

板に引きずられないようにリーシュは付けていなくて、父が流れた板を拾ってくるのを、ぷかぷか浮いて待っている。沖に向かって左には江ノ島が見えていて、右には遠く伊豆の山並みが見えている。冬ならハッキリ見える富士山は、ぼぅっと霞んで、てっぺんだけが見えていた。

膝立ちになりエッジを掴んで、何度か波に乗せてもらう。ぐっと波の力が板に掛かり、トンっとタイミングを計って父が押し出してくれると、板は私を乗せて岸へ走る。ちょっと傾けてみるとエッジが水面を切って、曲っていく。

そう言えば、初めてその日ウイルキンソンのジンジャエールをせがんで飲んで、思い切りむせたっけ。それを心配そうに、でもちょっと面白がって笑う父に私はすねた。

バドリングも少しづつできるようになり、押してもらわなくても、テイクオフ出来るようになる。リーシュも付けた。でもまだ立てない。

西に傾くお日様が、海を錦に変えていく。夕凪の海は、波の間が長くなって、波待ちをしている人も少なくなっていく。
「あれでいこう」

父が指差す沖には、今日の中ではちょっと大きめのうねりがあって、少し沖までボードを出して、波に合わせて、思い切りバドリングした。

ふっと、板が持ち上がり、スピードが上がる。片膝から立ち上がり、初めての視線の高さで波と一緒に岸に向かう。拍手をしている父が視線端で後ろに流れ、私はその日初めて一人で、波に乗れた。

あれから十数年の日々が流れた。

ブーメランコムスターホイルを一緒に磨き、CB400Tの後ろの席で見る風景も好きだった。だんだん太ってしまって、腰が持ちにくくなっていったけど。

若いころ、一度免許を取り消しになった父は、もう一度750Fに乗る夢はかなわなくて、結局そのホークツーが最後のバイクになった。

今も私は海で遊び、バイクで走る。
ありがとう父さん。今私が見ている世界は、あなたから始まりました。

もういないけど、もう一度ありがとう。


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