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2003/10/12(日)
sideA :やくそく / 帰ってゆくツバメ
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あのお店の軒先にあった巣には、もうツバメは居ない。今年は2番子まで育てて、帰って行った。巣造りが始まった時から、お店のおじさんは、ちっちゃな黒板にカラーチョークを使って、味のある絵を描いていて、卵にはちゃんと柄があり、生まれた雛の生え揃うまでの羽毛は、ちゃんと逆毛だった。そして一羽一羽に可愛い名前がついていた。
「今日卵が5個生まれました。」から始まった、ツバメのお知らせは、「今日無事に巣立ちました」で終わるのかと思ったら、「今年は2番子の雛が3羽生まれました!」で、また始まって、雨の多い夏は、なかなか雛が育たずに、脚立に乗って、雛に餌をあげているおじさんの姿も何度か見た。
弟が生まれた病院の帰り道、車中の父は思わず口笛を吹いていて、やはりとっても嬉しそうだった。二人女の子が続いて、私は男の子のように育てられた。自転車の特訓を受け、軟球のボールでキャッチボールをして、サイドスローでカーブまでは投げられる。そしてサーフィンを教わり、スキーを仕込まれた。勿論それは楽しい日々だったけれど、ピアノやバレー教室へ通うお友達が、そして妹がうらやましくはあった。
父の事業が行き詰まって来ていた頃、勿論私はちっとも気付いてはいなかったのだけれど、久しぶりにキャッチボールをした後の父の言葉が甦る。
「妹と弟、おねぇちゃんとして頼むな」 「あったりまえじゃんっ!」
自分の汗を拭ったタオルを、私に差し出した父は、あっと気付いて、悪い悪いと笑った。いいよいいよ、と受取った私は、久しぶりに父の香りを吸い込んで、軽く手足を拭いて、首に巻いた。そして、父と腕を組んで、お家に帰った。
私はその日の父と約束をしたと思っている。出来るだけはやってみよう。でも、おねぇちゃんとしてはとっくに失格しているのかも知れないけど。
2番子が旅立ったあと、南に帰るツバメの親子の絵が、「来年もまたね!」って言葉と一緒に10日ほど飾ってあった。その絵の子ツバメは、2羽だけだったのが、ちょっと悲しかった。
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