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2003/10/16(木)
side A:ファインダーのこちら側
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ドアを開いて、4畳半の壁を埋める本箱の下の段から取り出した絵本は、うっすらほこりをかぶっていた。母は本が大好きで、幼い頃から読み継いできた様々な本がギッシリ詰まっているこの場所は、私にも大切な場所だった。
今はブームになってみんな知っている指輪物語や、読んでからは、いつか家の衣装箪笥も雪の降り積もる、アスランの住む国へ繋がるのではないかと毎晩ドキドキしたナルニア国物語は、まだ少女だった母が買って、ずっと大切にしていた本を、私も読んだ。何だか目付きが悪くて、最初はあんまり好きになれなかったダヤンも、ワチフィールドで起こる様々な物語を読み進む中で、いつか愛しい友になっていったし。
今日最初に手に取った絵本は、三木卓さんの「ぼくたちのこと好きですか」だった。一人ぼっちの女の子と、子ぎつねたちのそのお話は、どうしようもない、人の心の移ろいの物語で、とってもとっても悲しくて、最初に読んだときは、ぽろぽろぽろ涙が出て止まらなくて、「こんなお話はヤッだッ!」って、本を押入れの奥に突っ込んで見えないようにした。そして、その時私が乱暴に扱ってしまって、杉浦繁茂さんのきれいな絵に、一度寄ってしまった皺を母が丁寧に伸ばした跡があった。
本箱のその段には、母が大切にしている木の額に入った写真が伏せてある。母は、長いきれいな髪をお下げにしていて、裾と襟元と袖にレースのついた青い小花の模様のワンピースを着ている。すこし首をかしげて、楽しそうに笑うその視線のこちら側には、父がいた。
それは、初めて父が母を撮った写真だと、ずっと前に私に話してくれた母は、まるで少女のようにはにかんでいた。
戻ってきてね。少しづつ。
本を元に戻して、すこし、はたきをかけ、掃除機をかけて、私はドアを閉じる。南から吹く風に、海鳴りの音が聞こえたような気がした。
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