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2004/09/19(日)
side A: あの日***をしていれば
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封印した恋心は、いつまでもあの日のままで、その風景にいる私もあの日の姿をしている。
カラダを売るようになる前、私は一度だけデートをした。
それは、処女膜を売るイベントのほんの一週間前で、せめて何かの思い出だけは持っていたいと思ったのだと、今なら判る。
16歳で晩熟だった私はキスも知らず、性的な経験はもちろん皆無だった。抱かれたいという衝動は、もうきっとあったけれど、経験がまったくない私は、それにためらいというより、恐れの方が先に立っていたのだと思う。
デートは、結局彼の胸に顔を埋めて泣き、抱きしめられはしたのだけれど、頬にキスをしてもらえただけで、そのままになった。ううん、そのままにした。
洋服越しの肌のぬくもりを、今でもふと思い出すことがある。
処女を売ったあと、何度も電話をかけようとし、なんどもメールを書いては消した。
その時頭にあったのは、あんなことをした私は、もう彼と付き合う資格は無いんだとか、汚れちゃった私を見せたくは無いんだとか、ほんとに幼い思い込みの中にいて、もう会えないことで、自分を悲劇のヒロインにし、自分を愛していただけだと今は思う。
カラダを売り始めてからも、彼に抱かれたいと思ったことは何度もある。淫夢さえ見たことがある。そして、結局、私は今日まで、金銭を介さない性行為をしたことが無い。
抱かれなくて良かったんだなぁと、今は思う。
感情のある性行為を知っていたら、ヨワッチイ私は、ソープ嬢であり続けることは難しかった。誰かに頼り、誰かに甘え、そして失うのが怖くて、嘘をつき、その嘘につぶされていた気がする。
あれから4年近い月日が流れて、たくさんのお客さんと交わり、数えきれないほどの回数、性行為をした。でも、性行為は性行為でしかなく、感情とは少し遠いところに置いておける。
それが良いことでは無いとは思うけど、私にとって性を仕事とする限り、プラスになっていることは間違いはない。
私の封印した恋心は、あの日のまま、あの日にある。
手を繋ぐだけでドキドキし、向けてもらえる笑顔だけで、幸せにな気持ちになり、ちょっとした一言で、寂しかったり、嬉しかったり、涙が出たり。
そこには、髭もほとんど見えなくて、頬の産毛が夕陽に輝いていた、まだ華奢な少年と、腰も胸もまだまだ薄い、性を知らなかった少女がいる。
そしてその二人は、もうどこにもいない。
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