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2003/10/02(木) sideB:山本直樹のマンガのように/一年前の今日
今日の月は少し赤い。あの日見た月は、白かった。

去年の10月2日は水曜日で、2学期制だった私の高校は、試験明けの休みだった。悔しいほど蒼く高い空を見上げながら、富士五湖道路を北に向かっていた。お天気にも景色にも不似合いな、ファッツ・ドミノのブルースがカーステから流れる車は屋根が無くて、しかも赤い。お客さんとしては最高なんだけど、彼女には絶対なれない。その日は貸切の仕事だった。

私を泊まりで丸一日貸し切ると、新車のK-CARが買える金額になる。3分の1近くはお店の収入で、部屋は他の子が使って、私はお水一滴使わないから丸儲けだ。決して薦めはしないけど、貸切をこなすとお店の受けはいい。勿論リスクはある。でも受験を控えて集中的に稼ぎたかったから、貸切は出来るだけ受けていた。そのお客さんとは3度目の貸切だった。

7月に部屋での事故があって、さすがにひと月はお客さんと二人になるだけで怯えがあった。注意はしていたけれど、接客にも出てしまったようで、それで離れていった常連さんもいる。貸切にも出れなくて、8―9月は収入が激減した。この日は事故の後の最初の貸切だった。

インターチェンジを降りてすぐ、私達はブックオフへ寄った。周りにはスタンド以外には店も無いのに何故かその店はあった。「30分ね」お客さんはそう言うと、一人で本棚の間を歩いていった。「30分」。お客さんが買った私の30分は金額にすれば、ユニクロのジーンズなら5本は買える。

お客さんが買ったのは塔山森&森山塔の旧作、って同じ作家だ。山本直樹と言った方が判り易いけど。そして内山亜紀やみやのんとくれば趣味は明白だ。今まで「そうかな?」とは思っていたけど、今日は隠すことも無く全開だ。私は前から探していた、清原なつのの花図鑑が全巻買えて、ちょっと嬉しかった。「こういう田舎の店が穴場なんだよ、古本は。」確かに秋葉やまんだらけならプレミアムが付きそうな本が100円だった。

車の幅ギリギリの道を少し走ると景色が広がって、その旅館はあった。離れの部屋には御約束のように露天風呂が付いていて、その向こうには清流が流れている。女将の挨拶が終わると、お客さんは早速鍵をかける。「お願いがあるんだけど。」今までの外出では、極普通のお仕事だった。

「毛、剃っちゃダメだろうから、少し短くして染めてもらえない?」一瞬迷ったけど、私は受けた。どうせ今日は毛先が丸くなるぐらいお仕事はするだろうし。

薄い茶色で短くなった毛は、確かに生え始めの少女のようにも見える。それを慈しむようにお客さんは頬ずりをする。指の先で芯を開きながら舌を這わせる。私の髪は三つ編みで、眼鏡もかけている。

眉を太く書き直して、ウイッグを付ける。オカッパはさすがに無かったようで、長めのボブだ。制服は本物で、ネームまで入っている。ルーズでは無くて、折り返しのついた靴下で、丁寧にローファーはコードバンだ。

「顔撮らせてくれたら別に1本あげるよ。」「顔が無い方が、きっと売れるよ。こんなぶさいく」「売らないよ、コレクション」「コレクションならマニアックに顔なし。色んな顔が想像できるじゃん」お客さんはダメ元で色々言う。私はNOとは言わない。YESとも絶対言わないのだけれど。

定番過ぎて笑っちゃったブルマーやスクール水着も、どこで売っているのか、私も着れるサイズの園児服や、ハイジみたいなワンピースも全部身につけた。裸から身に付け、そして少しづつ肌を晒す。ポーズを取ってデジカメで撮る。裸のままのお客さんは、何処がツボなのか反応が判るので面白い。そして波打つほどエレクトすると、その衣装のままの私に入って来る。食事の時間も惜しんで、お客さんは私にお仕事をさせる。浴衣も一重も袷も着た。

殆んどぶっ通しで、3度目のお仕事をして、さすがにゼリーを入れても渇いてくる。お客さんもエレクトしなくなって来て、やっとひと休みになった。露天風呂に入ってシャンパンを開けて乾杯する。何に対してのかは判らないけれど。快晴だった空に、高い鰯雲が出ているようで、月を横切る時だけ姿が判る。淡すぎる雲に、月が白い。

それから夜中までは、さっき買ったマンガのコマ通りの体位と、ストーリーを真似てまた何度もお仕事をした。衣装も何度も着替えた。

朝、私は約束通り、デジカメをチェックさせてもらって、顔が判るカットは全部消去した。小さな液晶の中で、その時々の私は、感じていたり、泣き顔だったり、媚びた顔だったり、そして少し笑っていたりしたけど、Deleteキーを押すと、無かった事になっていった。サヨナラ、一瞬だけいた私。


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