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2004/06/02(水)
結婚式
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まっ白なウエディングドレスドレスのうしろ姿は、ほんとうに華奢で、カメラが近づいていくと、アッっと目を大きくして振り向き、母は、花のように微笑む。
友人たちが顔を出し、お祝いの言葉を次々と口にする。
そして、ちょっと緊張した父は、周りの人達に囃されながら、ベールを軽く上げて、おでこにキスをする。母の頬もちょっぴり染まり、歓声が上がって、今から式を挙げる教会が映り、蒼い空が映っていた。
撮影しているのはきっと父の友人で、素人撮りのそのビデオはピントがずれたり、的外れなアングルが延々と映っていたりもするのだけれど、その分、温かな感じがする。小さな教会は木造で、母が日曜学校に通っていた場所で、神父さんではなく牧師さんがいる。
木の長椅子に並ぶ人達も、近しい人達ばかりで、嬉しそうにみんな笑っている。「バージンロードに入っちゃダメだよ」って、カメラの人は姿の見えない声に叱られて、「スミマセン」って、自分の靴と、磨きこまれた床が、一瞬写るのも微笑ましい。 緊張しながら一歩ずつ歩く。そして、父と母は祭壇の前に並び、誓いの言葉に、力強く答える。
戸籍に最初から片親の名だけしか無い、家庭に恵まれなかった苦学生の父と、東京で何代も続いた商売を営む家に生まれた一人娘の母は出逢い、色々あったけれど、その日を迎えた。
嬉しそうで、本当に嬉しそうで、その気持ちが画面からも伝わって来る。
教会から、みんなが出てきて、出席者全員で写真を撮り、友人たちとそれぞれ写真を撮り、後ずさりする父を学生時代の友人たちが捕まえて、ちょっと心配そうに、でも楽しそうに笑っている母の前で、胴上げするところでそのビデオは終わっていた。
とても幸せそうな結婚式で、とても幸せそうな二人で、とても素敵な梅雨の合間の青空だった。
そのビデオを初めて見たのは、父が自殺し母が入院した後だった。
その箱には、頂いたお祝い電報の束や祝儀袋や、ささやかな宴のお品書きや席次表、色の褪せた箸袋まで入っていた。幼い頃に、母にせがんで見せてもらった結婚写真も、もちろん一緒だった。そして、 母が自分で縫った、ウエディングドレスが丁寧にしまわれていた。
今でも私は思う。もし結婚できる事があるのなら、あんな結婚式がしたい。少し黄ばんではいるけれど、あのウエディングドレスが着てみたい。
父と母はあの日の笑顔からはもう遠くて、そんな事を思う私は、同じ年の友達より、結婚には少し遠い。
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