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2004/10/21(木) side A:    し あ わ せ の風景
あの日、模擬店に入ってコーヒーを頼み、座ったテーブルには英字新聞がクロス代わりにかけてある。

ふと目に入ったイラストは、何かの広告のようなのだけれど、言葉の所は折り込んであって見えない。

金魚には見えない形をした二匹の魚は、無表情なんだけど幸せな風景に見える。

見詰め合っているわけではない。

何かを話しているわけでもない。

ちっちゃな水槽に向かい合って、ただただ一緒にいるように見える。

まだ三人で暮らしていたころ、父と母と私が、別々に本を読んでいる風景を思い出す。

ほとんど家具も無く、あるのは大切な本だけで、背にはクッションも付いていない座椅子に座った父と、壁を背に、自分で作ったお座布団に座って、足を投げ出す母との間の床に、広げた絵本を私は読んでいた。

そんな、みんなで一緒に過ごす、やわらかな時間たちが好きだった。

ちょっと冗談を言い合っていた余韻を引きながら、コーヒーが運ばれてくる。その女の子の背中に、新しい冗談が飛んできて、思わず振り返るその子の手の支えるお盆からは、コーヒーが滑り落ち、テーブルにこぼれてしまう。

「あ、ごめんなさい、ごめんなさい。すぐ新しいの、持ってくるからあちらの席で。」

席を立つとき、もうあのイラストはくしゃくしゃに丸めらて、捨てられるところだった。

あの風景は、もうない。


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