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2004/02/22(日) sideA:最初で最後のデート。/カメラの前で処女を無くした日(3)
その前の土曜日、私は男の子に会った。湘南電車の時間と、車両番号を決めて待ち合わせをした。同じ車両の東京寄りの端っこと、小田原寄りの端っこに乗る。あまり混んでいなかったので、彼が見える。ローカルな私の街では、駅で待ち合わせをすると誰かと出会う。それは私の初めてのデートだった。

告ッた訳でも、告ラレた訳でもなくて、中学の同級生で大船の進学校へ行った彼と偶然再会したのは、その頃興味のあったある資料を国会図書館へ調べ物に行った時だった。それから携帯番号とメアドを交換して、連絡を取っていた私達は、少しづつ近づいている気がしていた。

そんな頃父が自殺して、私の暮らしは大きく変わった。心配したその男の子は、メールで相談に乗ってくれたり、色々私を励ましてくれたけれど、心を閉ざしてしまった母に代わり、相続から法的な問題の実務を判らないながら、調べ調べ、親身になってくれた父の知人の弁護士さんとのやり取りに忙殺されて、少しづつ疎遠になっていった。

その頃の私は、急に世の中の様々な事に向かい合わなくてはならなくて、気持ち的にもイッパイイッパイで、当たり前なのだけど16才の男の子の子供っぽさが鼻についていなかったと言えば嘘になる。そして、背伸びをして、大人ぶっていた私が、見下す対象にしてしまっていた事も今なら判る。でも彼は、とっても優しかった。

中学の時から、彼氏と一緒に遊びに行く友達を横目に見ながら、学校と塾と海で私は過ごしていた。興味はもちろんあったし、何度かは告ラレた事もあったけど、なんとなく機会がなかったし、私の方から絶対付き合ってみたいって思う男の子は現れていなかった。

その日は、カーテンの陰に吊るしておいた照る照る坊主の効果が、あったのか無かったのか良く判らない、どんより曇った朝だった。そして寒かった。

突然の誘いに、すこし困惑しながらも、彼はOKしてくれた。ジーンズにするかパンツにするかずいぶん悩んで決めたその日のコーディネイトは、取って置きのYELLOW RUBY?で買ったミニスカにジップ付きのスウェットパーカーだったのだけれど、思い切り寒そうだった。でも、一番可愛く見えそうな気がして、そのまま出かけた。ストッキングを履こうとは思わない、まだ、いつも生足の高校生だった。

乗り換えた電車はゴトゴト走って、海辺の古い町へ向かう。隣に座って少し近況を話し、市街地を抜けて海が見えてきた頃から、自然に二人は手をつないでいた。空は曇り空のまんまで、沖に白波も立っている。

電車を降りて、大きなお宮まで歩いた。つないでいる手が温かくて、うれしかった。お参りをしてまた少し町を歩く。駅を抜けて海岸へ向かう。少し、冗談も言い合えるようになってきて、いい人なんだなぁ、って改めて思ったりもした。少し重いことも話した。少し涙ぐんでもしまった。彼はウンウンと聞いてくれて、励ましてくれた。

少し雲が切れて、海にお日様の光が何本ものラインになって射す。彼はカバンから、リボンのついた箱を取り出して私にくれた。中には小さなブルートパーズの石のついた、ネックレスが入っていて「え?」って尋ねる私に、「クリスマスにこれ渡して、告ろうって思っていたんだよ」って笑う。「あんまり力になれないけど、付き合ってください。」彼は、真面目な顔でそう言った。私は「ハイ」って言いそうになって、来週には誰か知らない人に処女を売って、それからビデオも発売されて、今の私は居なくなっちゃうことを思い出して。そしてその事を全部話したくなって、もう一度彼の顔をみた。

陽射しに映える彼の頬は、産毛がきれいに光っていて、髭はほとんど見えなかった。今日が始まりで、今で終わり。でも、何にも無かったよりは良かった。

彼の胸に顔を埋めて少し泣いた。少し泣いてから、ありがとうって言って、また連絡するね、って言った。キスしたかった。でも彼はほっぺたに軽くキスして、待ってるねといって、二人は駅へ向かってまた歩いた。

「連絡するね」の約束は、守られる事は無く、次の週、私は処女を売り、2ヶ月後からカラダを売るようになって、3年経った今はソープ嬢として毎日何人ものお客さんと交わって暮らしている。何度も来たメールに返事は出していないし、電話は取らなかった。何度か、町で出合った時は、目礼だけをしてすれ違った。でも、去年の誕生日にもクリスマスにも、メールは届いた。

ゴメンね。そしてありがとう。

「待っているね」の約束も、もう遠い。遠すぎるから、大切に残っているような気がする。

イベントの日、大げさなファンファーレが鳴って、私の処女を買う人を決めるビンゴが始まった時、最初で最後の私のデートの日の事が、頭の中に鮮明に甦った事を思い出した。


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