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2004/03/22(月)
side A:身代わり あるいは つかのまの・・
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カーテンの間から覗いてみると、ガラス窓はくもっていて、冷えた空気がバスロープ一枚の肌を撫ぜる。思わずブルっと体を震わせて、肩をすぼめる。お客さんはまだ眠っている。
今日のお客さんはかなり高齢で、貸切は3度目だった。今日は、ホテルではなく、UNIONへ寄って、食材を仕入れ、海辺の瀟洒な別荘として使っていると言うマンションで、私が料理を作って少し遅い夕食にした。そのお客さんには今は家族は居なくて、私達は仲のいい父娘のように腕を組んで買い物をし、妻のようにエプロンをつけてお料理をし、お客さんは「新撰組」を見ながら、ソファーでビールを飲んでいる。
小鉢で、軽い肴から順に出していくと、「やるじゃないか!」と嬉しそうに笑って、箸を付けて「美味いじゃないか!」と大げさに驚く。 食事が終わって、片づけをしながら、そしてソファーの横に座って、前にも聞いた成功談を、おかぁさんのようにうなずきながら聞く。そして、お風呂でだけソープ嬢に戻って、ベッドの上では、若かった頃の恋人のように交わる。激しく。
この前もそうだったのだけれど、一度イッタ後は、性的な誘いをかけてみても、頭を撫でてくれて、軽いキスを返すだけだった。
夜中にお客さんは泣いていた。眠ったまま静かに泣いていた。額に入った家族写真の奥さんと娘さんは、もう20年以上前に、事故で亡くなったと聞いた。
起こさないように、お味噌汁を作り、玉子焼きを巻く。鯵の干物も2枚焼く。出汁は聞いていた昆布とかつおのあわせで、味噌は麦味噌、具はお豆腐だ。少し音を立てて浅葱を小さく刻むまな板の音に、ベッドルームから、「おはよう」と声が掛かる。
外は雨が降っていて、海は暗い。
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