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2002年6月
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2002/06/25(火) side A★ 紫陽花
細い雨に色を増してゆく紫陽花が私は好きだ。春の花が一つ、また一つ命を終えてゆき、艶やかに咲き誇り美しさを競い合っていた薔薇たちが眠りにつく頃、この花は小さな手毬の姿を現す。

広くは無い庭の、西の垣根に沿って、私の肩の高さほどに切り揃えられたこの花の茂みがある。手前には、広がってゆく波紋のような、今はまだ、淡い水の色をした腰丈ほどのガク紫陽花も咲いていて、この季節には決まり事のように、葉には親指程の緑色の雨蛙と、蝸牛が姿を見せる。

去年の庭は荒れていた。丈が不揃いになってしまった紫陽花たちは、大きさも不揃いな花を揺らしていて、道にはみ出してしまった枝の、時折通る幅の広い自動車に触れて折れてしまった、まだ開ききっていない手毬は、花として愛でられることも無いまま、芥になって雨に濡れていた。

この家は父が愛した家だった。家族に恵まれない生い立ちを持った父が、母と出会い、私が生まれ、妹が生まれてから、棲家を探し、働いて働いて、一生懸命働いて、たくさんの夢と、たくさんの今日と、たくさんの明日たちを想いながら建てた家だった。その家で弟が生まれ、独り暮らしになった祖母も加わり、私たちは家族として暮らしてきた。

去年、父は逝った。自らの意志で。この家だけは私たちに残そうとして。

父さんほんと馬鹿だよ。大好きだったけど、お人好しで大雑把でとんちんかんで、詰めが甘い。母さんを保証人にしてた事もきっと忘れていたんだろうし、返済の終った分はまた抵当にいれちゃっていた事も忘れていたんだよね、きっと。

でも、なんとか私たちはこの家で暮らせている。殴り倒されるかも知れないけど、私はもう一人の私を作った。親不孝な娘だって事は、よーく判っている。

紫陽花が飾られた仏壇の前で、私は手を合せる。ちょっと太りすぎになってから撮ったその写真の父は、いつも目を細めているように見える。

「親不孝は謝らないよ、父さんの方がよっぽど娘不幸なんだから」

ちょっと舌を出して、もういちど手を合わせ、私は学校へ向う。少しづつ紫陽花は色を変えていた。


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