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2004/03/26(金)
side A:車内の風景。そして
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アルコールの香りと、髪や服に染み付いた煙草の香りを詰め込んで、金曜日の深夜の電車は走る。今から二人で入るベッドを前提に、言葉だけの駆け引きがあったり、温度に差があるデート帰りの、最後の足掻きの口説き文句だったり、酔眼で語る人生を、後ろを向いて舌を出す軽い嘲笑なんかを混ぜこぜにして、電車は人を乗せ、人を吐き出して走り続ける。毎週この電車だけは、いつもの電車と何かが違う。
高校生の頃、この電車が嫌でたまらなかった。疲れ切って乗るこの電車は、猥雑な感じの中に、休日前の妙な明るさと、陽気さがあって、金曜から始まる、ソープ嬢としての比率の高い三日間の幕開けで、乱れた衣服と、酔眼の並ぶ風景は、気持ちをホンとに逆撫でしていた。
この電車で、いつも私は参考書を開いていて、その事で何度も絡まれた。幾度かは、露骨に性的なからかいを受けたし、その頃の私は、それを跳ね返すだけの心の力はまだ無かった。
制服を着て家のある街からソープのあるこの街へ通い、駅ビルで着替える。帰りは私服だったけど、個室の灯りの中なら、年はごまかせても、電車の照明の中での私は、17歳の女子高校生だった。終電に乗って、参考書を開くその姿が目だっていたのは今なら判る。でもその時はただただ、一所懸命だった。
今の私は、稀に酔客に絡まれる事はあっても、この電車に溶け込んでいる。もうすぐ処女じゃ無くなって3年が経つし、ソープの仕事も2年半を超えた。身長は4cm伸び、カラダも女になった。
駅から家へ向かう道には、何本も木蓮の花が星空に手を伸ばすように咲いていて、桜も花を付け始めていた。ぼっと歩いていると、父のビデオのシーンが浮かんできてしまう。
今日は眠ろう。とにかく眠ろう。おやすみなさい。
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