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2004/02/27(金) side A:天国の隣の街
その街は天国の隣にありました。そこで暮らす人々は穏やかで、勤勉で優しく、お互いに助け合って平和に幸せに暮らしていました。そして、何よりも自分たちの街が天国の隣の街だという事を誇りにしていました。

でもその街はあまり豊かではありませんでした。冬は長く雪に閉ざされ、春は霞が街を覆い、長雨の季節が過ぎると、暑い、どうしようなく暑い夏が来ます。秋は駆け足でやってきて、収穫された穀物を冷たい雨で濡らし、そしてまた冬がきます。でも、その街は幸せに暮らしていました。

雪の季節に、一年で一番大きなお祭りがあります。遠い街から、天国へ行くことを許された人が来ます。天国の隣の街は、隣だから世界中で唯一天国へ行くことを許される人を選ぶ権利はありませんでした。でも、そのお祭りをすることが許された唯一の街だったのです。

今年のその人は、疲れきって街に着きました。そんな事は今までなかったので、街の人達は驚きました。
「選ばれた人なのにどうしたんだろう?」
今年のその人は、まだ若い男の人でした。亜麻色の髪は絹のように細く、目は湖のように深く蒼く、きりっと結んだ形の良い唇は、強い意志を感じさせるものでした。でも、疲れきっていて、病気のようでした。

「残念です。選ばれたのに、病気になってしまって」
街に着いた、その人はベット中で泣いていました。そして次の日には、死んでしまいました。

「祭りはどうするんだ?」
「せっかく準備をしたのに」

そうだ!誰かこの街で選んで、天国へ行かせれば、一石二鳥じゃないか!」

行きたい人を募ると、街の10分の1の人が手を挙げました。

「どうやって選ぶんだろう?」
天国へ行くことを許される人を選ぶ権利がその街には無かったので、どうしていいのか判りません。

結局、くじ引きで選ぶ事になって、選ばれた人はまだ幼い少女でした。

少女は、盛大な祭りに送られて天国へ向いました。
「どんなところかな、天国って?」

雪の道を少女は歩きます。
「きっと光に満ち、お花が咲き乱れる素敵なところなんだろうな!」

何日か歩いて、天国の門が遠くに見えてきました。大勢の豆粒のように見える人が少女を迎えてくれます。少女は小走りになって、全力疾走になって、門を目指します。でも走っても、走っても、人の姿がおおきくなりません。

足元に豆粒くらいの人が沢山いました。少女はちょっと戸惑って、挨拶をしました。
「こんにちは」

答えは無くて、門の上に備えてあった鉄砲が火を吹いて、少女の心臓を打ち抜きました。

「対策を考えなくてはな。」
「柔らかくて美味しかったが、量が足りない。去年の”天国へ来る男”が太った男でなかったら飢え死にするところだった」

神様と呼ばれる豆粒くらいの小さな人達が、相談したことなんて、美味しかったことしか憶えてもらえなかった少女が知る事はありませんでした。


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